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 友里恵の家は、駅前の喫茶店から歩いて10分の住宅地にあった。まわりには似たようなデザインの家屋が整然と並び、何かの跡地にまとめて建築販売されたエリアだと一目でわかる。新築当初のターゲットは若いファミリー層だろう。実際、この家の前の住人は、30代の夫婦と4歳の息子だった。 「アールグレイでいいかしら?」  友里恵は未鈴をリビングに通し、キッチンで湯を沸かしはじめた。 「ありがとう、何か手伝う?」  形式的に聞いてみたが、友里恵は案の定「座ってて」と返す。リビングのソファと迷い、未鈴はダイニングチェアを引いて腰をかけた。  テーブルの天板にはキズひとつなく、何も載っていない。スッキリと片付いた部屋に、あたしだって子どもがいなきゃこういうふうに暮らせるわよ、と、言い訳じみた考えがじわりと胸ににじんだ。 「相変わらずきれいに暮らしてるわね。尊敬するわ」 「それだけが取り柄だもの、専業主婦だし」 「専業主婦だって、サボっている人はたくさんいるわよ」 「それに、手をかけてあげたほうが家も喜ぶから」  ……あぁ、いやだいやだ。  かかとを踏まれて靴が泣いてるとか、美味しく食べてあげないと野菜が可哀想とか、安易に物を擬人化した言い方を未鈴は嫌悪していた。  気持ち悪いじゃないか、物に感情があるみたいで。  黙った義妹を気にする様子もなく、友里恵はカウンターの向こうで優雅に紅茶の準備をしている。
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