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 いらだちを薄く細くのばして唇から逃がし、未鈴はそれとなく室内を見回した。家の外壁と同じく、壁紙は真っ白、フローリングもピカピカだ。「貼り替えられた」ことを無言で主張しているようで、逆に居心地が悪い。無意識にクンクンと鼻をきかせてしまったが、室内には白檀のような「調整された」香りが漂っていた。 「お待たせ」  友里恵がトレイに載せて運んできたのは、白磁の上等なティーセットだ。クッキーを乗せた小皿やシュガーポットまで揃った高級感に、好感より劣等感が湧き上がる。レンジにかけられない金縁の食器など、未鈴の家には一つもない。 「友里恵さん、折り入ってお願いがあるの」  兄嫁が向かいの席に座ったタイミングで、未鈴は本題を切り出した。機をうかがっているうちに「そろそろ帰って」なんて言われてはかなわない。友里恵は動揺した様子もなく、先を促すように小首をかしげた。 「鈴乃(すゞの)の学費支払いが来月なの。百万円、貸してください」  一人娘の鈴乃が志望校に合格したときには喜んだが、私大の学費を捻出するのは想像以上に難しかった。旦那がにわか知識で手を出したFXで数十万を溶かしてしまい、未鈴にはもう後がないのだ。 「鈴乃が就職したら必ず返済するから、お願いします!」  彼女がどんな目を自分に向けているのか知りたくない。未鈴は頭を下げ、テーブルの木目をじっと見つめた。
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