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「変な言い方をしないで。兄さんはもういないのに」
「いるわよ、ここに」
「な……っ」
「兄妹なのに、わからないのかしら?」
未鈴は反射的に左右を確認したが、兄の姿などない。当たり前だ。葬儀は済んだ。死に顔も見た。心筋梗塞で外傷がなかったせいか、まるで眠っているようではあったけれど、確かに兄は死んだのだ。
まさか、彼はいつまでも心の中で生きているとか、守護霊になったとでも言いたいのだろうか。未鈴はあやしげな宗教の勧誘を受けたような気持ちで兄嫁の笑顔を見つめた。
兄に紹介され、初めて会ってから25年。歳の近い義姉妹として仲良くしていた時期もあったのに。友里恵はいつから、こんなふうに笑うようになったのだろう。
パキッ ピシッ
日が落ちて気温が下がったからか、家鳴りの音が何度も聞こえる。築10年の家屋がこんなに鳴るものだろうか。音のした窓の方に目を向けた未鈴に、友里恵は柔らかな声で告げた。
「お客さまがいらしているとよく鳴るの。喜んでいるだけだから、気にしないで」
未鈴はギュッと眉根を寄せた。からかわれているのか、子ども扱いされているのか。どちらにせよいい気はしない。「いい加減にしてよ!」そう言おうと息を吸い込んだ瞬間。
ガチャガチャ、バタン
玄関の方から音がした。
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