3.

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「誰か……来た?」  住人でなければ、勝手に鍵を開けて入っては来ないだろう。やはり友里恵には同居人がいるらしい。未鈴は居住まいを正し、リビングの入り口に顔を向けた。 「いえ、大丈夫よ」  友里恵はそんな未鈴にクスリと笑い、壁の掛け時計を見た。 「前この家に住んでいた奥さんよ。夕方までの仕事だったそうで、この時間になるとああして帰宅する音がするの」  「……は?」  廊下を足音が近づいてきて、部屋の前でぴたりと止まった。ドアの向こうに誰かがいる。が、その誰かはいっこうにリビングに入って来ない。  磨りガラスのはまったドアを凝視していた未鈴の全身に、ザッと鳥肌が立った。  そういえば、さっきから2階で軽い物音がする。小さな子どもが走り回る音は、自宅マンションでは日常だから気にならなかったけれど。おかしいじゃないか。この家に、子どもはいないはずなのに。 「前の住人はね、一家3人で住んでらしたそうよ」  目をむいて固まった未鈴に、友里恵が穏やかに話し始めた。 「でも、せっかく買った家なのに、3年しか住めなかったんですって。ご主人が異動になって」  違う。いや、転勤が決まったのは事実だが、ここに3年しか住めなかったのは、彼ら一家が引っ越したからではない。  地方営業所への左遷を気に病んだ夫が、妻と幼い息子を手にかけ、心中を図ったからだ。
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