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幸せに見えた一家3人の無理心中。その悲劇はテレビやSNSで取り上げられ、事故現場の外観や間取りが何度も公共の電波に乗った。誰が予想できるだろう。まさかその家を、自分の兄夫婦が購入するなんて。
「奥さんはね、赴任中はこの家を、賃貸に出すことを考えていたそうなんだけど」
友里恵がリビングの入り口に目を向け、「ね?」と言うように首をかしげた。
そんな情報、どこから仕入れたのだろう。未鈴が調べた限り、「夫は転勤の辞令を家族に言えず、思い詰めて凶行に及んだ」はずなのに。
「旦那さんは、まだ新しい家を他人に汚されるのがいやだったみたいね」
友里恵が次に微笑を向けたのは、未鈴の頭上だ。ギョッとして振り仰ぐと、天井にはシーリングファンがゆるやかに回っている。そこから垂れる異質なものに、目が釘付けになった。
ギイイィィ ギィイィィ
錯覚だと、思いたかった。重く不快な音に合わせ、ファンにかけられたロープがピンと張りつめ、左右にゆっくりと揺れている。
「ひ……っ」
弾かれたように席を立ち、未鈴はほぼ四つん這いで窓際に走り寄った。レースのカーテンを背に、フローリングにへたり込む。友里恵は何事もなかったようにティーカップを口に運んだ。
「怖がらなくて大丈夫よ、彼らは何もしないわ」
「なに……」
「本当よ。彼らはただ、ここにいるだけ。それだけでいいの」
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