1話 出会い

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大学生二年生だった私は三年生になっても推し活(週一で図書館に通い、ハヤミさんを遠くから見守る活動)を続けた。 「推しって、アイドルとか二次元の存在に使うんじゃないの?」 推しのハヤミさんが私にとってどんなに尊い存在かという事を、大学内のカフェで話していたら、いくちゃんに突っ込まれる。 「それにハヤミさんって一般の人でしょ? なんか美樹のはズレてる気がする」 「遠くから見ているだけで幸せになれるって言うか、元気の源っていうか、生きがいって言うか。そういう存在をみんな推しって言うんでしょ?」 「まあそうだけど。でも、美樹の場合は恋愛感情じゃないの?」 「恋愛感情とは全然違うよ。ハヤミさんとどうこうなりたいとかって、全く思わないもの。ただハヤミさんを見ているだけで幸せなの」 「そういうものかね」 「とにかくハヤミさんは私の推しなの」 「はいはい。わかった。わかった。ところで『今日ドキ』1位って凄いね!」 いくちゃんが嬉しさを伝えるようにバンッと勢いよく私の肩を叩いた。 『今日ドキ』とは『今日もあなたにドキドキしています』の略で、ハヤミさんをモデルにして私が書いている恋愛小説だった。 いくちゃんの勧めで、ネットの投稿サイトで公開したら、あっという間に人気ランキングで1位になってしまって戸惑っている。 「まさか美樹がこんなにバズるとは思わなかった」 リアルでは存在感のない私が人様から注目されるようになるとは私も思わなかった。事実は小説より奇なりってこういう事かもしれない。 「ねえ、スカウト来るんじゃないの? 美樹、このまま作家デビューかもよ」 いくら一位になったからと言って、そんなに上手い話ある訳ない。ランキング上位の人は商業作家としてデビューしている人も多くいるけど、私のような素人作家と違い実力がある。私は偶々運が良かっただけ。だから、スカウトなんて絶対に来ない。そう思っていた九月後半のある日、私の運命を変えるメールが来た。 " いきなりのメール失礼致します。集学館で編集をしている速水という者です。卯月先生の作品『今日もあなたにドキドキしています』を拝読させて頂きました。ヒロインの心理描写が生き生きとしていて、私も胸キュンで読ませて頂きました。" なんと大手出版社の集学館(しゅうがくかん)の人からだった。 メールには一度会って、話したいと書いてあった。
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