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内気な私はまた悶々とメールに対して悩んだ。いくちゃんは会って話を聞いてくればと言うが、冴えない私が書いていると編集の方が知ったら、私に興味を無くすのではないかと心配になった。
「あのね。編集者が興味を持ったのは内田美樹じゃなくて、『今日ドキ』っていう作品にだよ。だから作者がどんな人間かなんて、最初から興味ないと思うよ」
居酒屋のカウンターで勢いよくビールジョッキを置いたいくちゃんが言った。
編集者のメールに悩んでいると、飲みに行くよと言われて、バイトの後に連れて来られた。
「そうかな」
「そうだよ。ぶっちゃけ、面白い作品を書くなら、どんなヤバイ奴でもいいんじゃないの?」
「私ってヤバイ奴かな?」
いくちゃんがメイクで一回り大きくなった目を向けてくる。
「結構、ヤバイかもね。だって美樹、今は完全にハヤミさんのストーカーだもん」
「ストーカーじゃないもん。推し活だもん。それに、図書館の外までは追いかけてないよ。図書館内のハヤミさんを遠くから見ているだけにしてるんだから」
ハヤミさんのプライバシーを侵害するような事はしていないつもりだ。
「ドラマとか映画に出ている推しの俳優さんを見るのと一緒なんだから。あくまでもハヤミさんは推しで、直接関わってどうこうなろうとかって全く思ってないから」
「その感覚が不思議過ぎて何度聞いてもわからない。私だったら絶対に話しかけて仲良くなるけどな。それにしても一年も図書館に通っていて、未だにハヤミさんに気づかれていないのもびっくりだわ」
「気づかれないように気をつけているもん」
決してハヤミさんの視界に入らないようにしている。
図書館は隠れる場所が多いからハヤミさんを観察するのに都合がいい。
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