8話 タクヤ君のスキャンダル

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いくちゃんに腕を掴まれたまま全力で駅の外まで走った。駅前の通りに出て、雑居ビルに入る。そのビルの二階にはコーヒーショップが入っていた。 肩で息をしながら階段を上ると、ちょっと待っててといくちゃんに言われた。いくちゃんだけが先にお店に入って、一分ぐらいで出て来た。 「知り合いはいなそうだった。とりあえずここに入ろう」 大学の子がいないか、店内を確認してくれていたんだ。 万が一、高木さんのお友だちがいたら高木さんに通報されそうだもんね。そこまで気が回らなかったな。さすがいくちゃんだ。頼りになる。 「い、……い、くちゃん、あ、り、がとう」 「美樹、ゾンビみたいな声出さないで。息切れすぎだから」 「だ、だって」 呼吸が苦しくて地の底を這うような声にしかならない。確かにゾンビみたいだ。 脇腹が痛くて前屈みになる。心臓がどっくんどっくん鳴っている。あー苦しい。走る事は大嫌い。高校時代は持久走の授業が大嫌いだった。 「無理に話さなくていいよ」 いくちゃんに連れられて店内に入った。 入り口近くのテーブル席に座ると、もう一歩も歩けない気がした。 「大丈夫?」 顔色の悪い私を見ていくちゃんが聞いた。 「……み……水……」 「お水ね。わかったからゾンビ声はやめて。面白過ぎだから」 いくちゃんがウェイターさんにお水とコーヒーを頼んでくれた。 運ばれて来た水をゴクゴク飲んで、やっと落ち着いた。 「それで、タクヤ君と熱愛って何?」 向かい側に座るいくちゃんが心配そうに聞いた。 「うん。あのね」 昨日タクヤ君から聞いた話をそのままいくちゃんに話した。
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