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いくちゃんに腕を掴まれたまま全力で駅の外まで走った。駅前の通りに出て、雑居ビルに入る。そのビルの二階にはコーヒーショップが入っていた。
肩で息をしながら階段を上ると、ちょっと待っててといくちゃんに言われた。いくちゃんだけが先にお店に入って、一分ぐらいで出て来た。
「知り合いはいなそうだった。とりあえずここに入ろう」
大学の子がいないか、店内を確認してくれていたんだ。
万が一、高木さんのお友だちがいたら高木さんに通報されそうだもんね。そこまで気が回らなかったな。さすがいくちゃんだ。頼りになる。
「い、……い、くちゃん、あ、り、がとう」
「美樹、ゾンビみたいな声出さないで。息切れすぎだから」
「だ、だって」
呼吸が苦しくて地の底を這うような声にしかならない。確かにゾンビみたいだ。
脇腹が痛くて前屈みになる。心臓がどっくんどっくん鳴っている。あー苦しい。走る事は大嫌い。高校時代は持久走の授業が大嫌いだった。
「無理に話さなくていいよ」
いくちゃんに連れられて店内に入った。
入り口近くのテーブル席に座ると、もう一歩も歩けない気がした。
「大丈夫?」
顔色の悪い私を見ていくちゃんが聞いた。
「……み……水……」
「お水ね。わかったからゾンビ声はやめて。面白過ぎだから」
いくちゃんがウェイターさんにお水とコーヒーを頼んでくれた。
運ばれて来た水をゴクゴク飲んで、やっと落ち着いた。
「それで、タクヤ君と熱愛って何?」
向かい側に座るいくちゃんが心配そうに聞いた。
「うん。あのね」
昨日タクヤ君から聞いた話をそのままいくちゃんに話した。
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