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「お兄ちゃん、なんで速水さんを知っているの!」
思わず聞き返すと、電話の向こうでお兄ちゃんがチッと舌打ちする気配がした。
『やっぱりそいつと関係があるのか。そいつのせいでこんな熱愛記事も出たんだな』
そいつとは速水さんの事?
『よくわかった。二度と美樹に近づくなと釘を刺してくる』
プツリと電話が切れた。
えっ……。
「美樹、どうしたの?」
テーブルの向こうのいくちゃんが心配そうに見て来る。いくちゃんと目が合った瞬間、もしかしてという気持ちが浮かんだ。
「いくちゃん、速水さんの事、お兄ちゃんに話した?」
いくちゃんの黒目が左右に動き、気まずそうな笑みを浮かべた。
「ごめん。美樹。なんか気づいたら速水さんの話になっていて……」
「お兄ちゃんにどんな話をしたの?」
「えーと、その、美樹が気になっている人がいて、それが速水さんだっていう話を……」
いくちゃんがあははと笑う。
心配症のお兄ちゃんがそれを聞いたらどうなるかぐらいいくちゃんだってわかっていたはずなのに。
「なんでお兄ちゃんに話したの!」
「話の流れでつい……。ごめん、美樹。でも、心配する事ないんじゃないの?」
「いくちゃんはお兄ちゃんの異常さがわかってないんだよ!」
大変だ。お兄ちゃんが速水さんに何かをする前に何とかしなければ!
こうしちゃいられない!
ガタッと立ち上がると「美樹、どうしたの?」といくちゃんに聞かれる。
「速水さんの所に行ってくる!」
「大学の講義は?」
「今日はサボる。いくちゃん、ノートよろしく!」
コーヒー代を置いて、店を出た。
一刻も早く速水さんに会わなければ。
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