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ハヤミさんに助けてもらった日から、頭の中でハヤミさんの姿を再生するようになった。
背が高くて、ネイビーのスーツが似合っていて、精悍な顔立ちで、年齢は二十代後半ぐらい。低めの落ち着いた声で素敵だった。
盗撮犯を取り押さえた時のハヤミさん、アクション映画に出てくるヒーローみたいでカッコ良かったな……。
「黙ったまま、ニヤニヤするのやめてくれない?」
向かい側に座る島田郁美ちゃんに言われた。いくちゃんとは小学校からの付き合いで、いくちゃんにはハヤミさんの事を打ち明けた。
「どうせまたハヤミさんの事でも考えていたんでしょ」
白いコーヒーカップを置いたいくちゃんが呆れたようなため息をつく。
昼休み、大学内にあるカフェでいくちゃんとお茶をしていた。
「美樹、完全に一目惚れだね」
いくちゃんが綺麗にメイクをした大きな目を向け、探るように見てくる。
ドキッとした。
「ひ、一目惚れじゃないよ。ただ、お礼も言えなかったから気になって」
ハヤミさんはいつの間にか書店から姿を消していた。アルバイトに入る度にハヤミさんの姿を探すけど、会えなかった。
「一ヶ月前に一度だけ会った人の事を考えるのは普通一目惚れって言うんだよ」
「ち、違うもん。あ、私、講義だから」
空になったアイスティーのグラスを持って立ち上がった。
「逃げた」
「逃げてないって」
目が合うといくちゃんがクスクスと笑う。
いくちゃんが指摘した通り、私はハヤミさんに一目惚れをした。
だけど、いくちゃんと違って冴えない私がハヤミさんに一目ぼれだなんて恥ずかしくて言えない。
恋愛からほど遠い場所に私はいる。人見知りで、友達はいくちゃん以外にいない。
知らない人の中にいると、いくちゃんによく挙動不審になっているよと言われる始末だ。
そんなつもりはないんだけど、いくちゃんから見たら、常に私はおどおどしているらしい。それが庇護欲をそそるとかで、いくちゃんはいつも私の傍にいてくれる。
「美樹、前見て」
いくちゃんに言われた次の瞬間、柱にぶつかり、眼鏡が落ちた。
レンズにしっかりとヒビが入った。
やってしまった。
新しい眼鏡買わなきゃ。
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