250人が本棚に入れています
本棚に追加
ハヤミさんは大きな公園の中に入って行った。
噴水があって、テニスコートがあって、芝生の広場があって、その先には赤茶色の三階建ての建物があった。所々、蔦が絡まった外壁は古そうな雰囲気があった。薄くなった緑色の看板に『区立図書館』と書いてある。
自動ドアを通って、中に入ると、1階のカウンター前に立つハヤミさんを見つけた。ハヤミさんは鞄から本を三、四冊取り出してカウンターの女性に渡していた。
「ご返却ありがとうございます」
女性の言葉を聞くと、ハヤミさんは女性に会釈をして、建物の奥へと進む。
ハヤミさんが向かったコーナーは一般図書と書いてあった。
日本文学集が収められた書棚の前でハヤミさんは立ち止まり、本を手に取っていた。
私は離れた場所から、ハヤミさんを観察した。
一年ぶりに見たハヤミさんは髪が少し短くなっていた。艶のある黒髪で、前髪は斜めに流し、耳周りと襟足はスッキリとしていて、清潔感のある髪型だ。
高い身長は書棚の上にある本も楽々と届きそうで羨ましい。私の頭の位置は多分、ハヤミさんの肩ぐらいだろう。
引き締まった体型でスーツが素晴らしく似合っている。スーツの仕立ても良さそう。量販店で買った物ではなく、オーダーメイドかもしれない。
もしかしてハヤミさんは御曹司?
それともエリートサラリーマン?
文学全集を読みふける姿からは仕事ができそうなオーラが漂っている。
何の仕事をしているんだろう? どこに住んでいるんだろう? 恋人はいるのかな? 盗撮犯を機敏に取り押さえたから格闘技をやっているのかな? あのスーツの下は逞しい筋肉があるのかな?
次々に聞きたい事が浮かんで、胸がいっぱいになる。
会いたかったよ。ハヤミさん。
本当に会いたかった……。
最初のコメントを投稿しよう!