1話 出会い

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熱いものが目の奥まで込み上げてきて、ぐにゃっと視界が歪む。 「大丈夫ですか?」 俯いて、涙を人差し指で拭いていたら、後ろから、心配するような女性の声がした。 顔を上げると紺色のエプロンを付けた女性が歪んだ視界に見えた。泣いている所を見られて恥ずかしい。 「だ、大丈夫です」 涙ぐんだ声で言い返し、女子トイレに駆け込んだ。 鏡を見ると、顔中が涙でぐちゃぐちゃだった。 この顔を声をかけて来た女性に晒したと思ったら、恥ずかしくて悲鳴をあげそうになった。 こんな私じゃ、ハヤミさんに声を掛けられない。 そう思った時、ハッとした。 声を掛けるって、私、ハヤミさんに何を言うの?  一年前、本屋で盗撮犯に突き飛ばされた者ですと言って、ハヤミさんはわかるだろうか?  きっとわからない。 私なんてハヤミさんにとって通行人Aみたいなモブキャラだ。覚えている方がおかしい。 それに一年前の事を話して、こいつヤバイ奴かも? ってハヤミさんに引かれる可能性だってある。 改めて考えると、一年前に本屋で会っただけの人を図書館まで追いかけるなんて、私の行動は異常だ。 これってストーカー? 鏡の中の自分を見た時、黒目と合ってドキッとした。 いや、違う。これはストーカーじゃない。 ぶんぶんと頭を振って浮かんだ考えを消す。 ただ、あの時のお礼が言いたかっただけ。盗撮犯に突き飛ばされた私を支えてくれたんだもん。 お礼を言えば気が済んで、もうハヤミさんの事は考えなくなる。 きっとそう。 蛇口を捻り、勢いよく出て来た水で顔を洗いながら、私はストーカーじゃないと何度も心の中で思った。
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