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カウンターに近づき、柱の影からハヤミさんとゆりさんって人の会話に耳を傾けた。
「ハヤミくん、口が上手いね。今日借りるのはこれだけ?」
「うん。今日は三冊で」
「返却日は二週後になります」
「ゆりさん、来週の木曜日もいるの?」
「うん。来週もいるよ。あっ、ゆずがお土産ありがとうって言ってた」
「どういたしましてと言っといて。ゆずくん、もう5歳だっけ?」
「うん。なんかますます旦那に顔が似ちゃって」
「それは面白い」
旦那?
今、ゆりさんって人、旦那って言った? 旦那さんがいるの?
ハヤミさんの恋人じゃないの? 二人はただの知り合い?
「ゆりさん、また」
ハヤミさんがカウンターから離れ、こっちに向かって歩いてくる。
話しかけるチャンス!
あ、ハヤミさんがこっちを見た。うわっ、目が合う。ど、どうしよう。緊張でいっぱいになる。心臓がドキドキする。
今だ。今、話しかけなければ……。
ああ、ハヤミさんが私の横を通り過ぎる。
ハヤミさんが行ってしまう。
追いかけなければと思うのに、緊張し過ぎて、足が動かなくなった。自分の不甲斐なさに嫌になる。
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