1話 出会い

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カウンターに近づき、柱の影からハヤミさんとゆりさんって人の会話に耳を傾けた。 「ハヤミくん、口が上手いね。今日借りるのはこれだけ?」 「うん。今日は三冊で」 「返却日は二週後になります」 「ゆりさん、来週の木曜日もいるの?」 「うん。来週もいるよ。あっ、ゆずがお土産ありがとうって言ってた」 「どういたしましてと言っといて。ゆずくん、もう5歳だっけ?」 「うん。なんかますます旦那に顔が似ちゃって」 「それは面白い」 旦那? 今、ゆりさんって人、旦那って言った? 旦那さんがいるの? ハヤミさんの恋人じゃないの? 二人はただの知り合い? 「ゆりさん、また」 ハヤミさんがカウンターから離れ、こっちに向かって歩いてくる。 話しかけるチャンス! あ、ハヤミさんがこっちを見た。うわっ、目が合う。ど、どうしよう。緊張でいっぱいになる。心臓がドキドキする。 今だ。今、話しかけなければ……。 ああ、ハヤミさんが私の横を通り過ぎる。 ハヤミさんが行ってしまう。 追いかけなければと思うのに、緊張し過ぎて、足が動かなくなった。自分の不甲斐なさに嫌になる。
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