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002
「ねえ芳美。しばらく泊めてくれないかな」
芳美は、高校のときの友達。短大を卒業してから、大手保険会社の湧水支店に就職した。私の通う大学まで2駅という場所にワンルームマンションを借りて住んでいる。
「どうして?」
「卒論がピンチなの。家まで帰ると1時間半、往復3時間かかるからさ、1週間だけでいいの。通学時間を短縮したの」
「いいよ、って言いたいところだけれど、今は無理なんだよね」
「どうして?」
「彼氏が、泊まりに来てるのよ」
「彼氏って、桜井君?」
「違う。新山さん」
「新山さん? あれ? 桜井君とは別れたの?」
「そう、突然桜井君にふられちゃって、やけになってSNSで彼氏を募集したんだよね。そしてら会ってくれた人が関連企業の部長さんで、いい人なのよ。あっという間に打ち解けて、失恋から立ち直ったってわけ。今度の彼氏は逃したくないの。だから今は泊めてあげられない。力になれなくてごめんね」
私は、芳美って甘えん坊で尻軽なんだと思った。でも背に腹は代えられない。何とかして時間を生み出さければ卒論が立ち行かない。私は、ネットで近隣の安価な賃貸物件を探した。
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