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「これなんか、いかがでしょう?」
村田が、机の上に2階建てのアパートの写真を置いた。白い壁でモダンなつくりの建物だ。
駅から徒歩5分。職場のある菅井区までは、地下鉄で10分。この好条件で1LDK4万5千円は安い。
「いい感じですね」
ぼくの言葉を受け、村田は、部屋の間取り図や各部屋の写真を、一通り見せた。日当たりのよいリビングキッチン、シャワー付きトイレ、追い炊きのできる風呂。内装も白い壁にブラウンのフローリングで美しい。
「まだ築10年なので、どの部屋も綺麗ですよ。1階なので、荷物の搬入も楽にできます」
村田は、そう言うと口角を上げ、ぼくの目を見た。
噂によると、村田は、大手不動産仲介会社の課長で、新築マンション1棟すべてを、一人で売り切った凄腕らしい。
ぼくは、転勤にともない、湧水市の賃貸マンションを探していた。
ところが、近年の地価高騰で、どの賃貸住宅も値上がりし、ぼくのような中小企業勤めでは、この辺りに住めそうもない。
そう思っていたところだった。でも、この価格なら何とかやっていけそうだ。
「加賀美さん。どうしましょう?」
ぼくは、しばらく考え込んだが、「1日だけ、待っていただけませんか?」と答えた。
「わかりました。でも、もしお客様より先に契約を決めてくださる方がおみえなら、そちら優先になってしまいますが、……よろしいですか?」
村田は、そう言うと、口角を下げ、ぼくから視線を外した。
「はい。大丈夫です。また明日伺います」、ぼくはそう答えると、ショップを出て駅に向かった。
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