夏の終わりをコーディネート

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「いいよ、いい!! すっごく垢抜けた!」 あたしが興奮して詰め寄ると、荻野くんは身体を硬直させた。 「能勢さん近い。ちょっと離れて……おれまだ自分の格好、見てないんで」 どうやら試着室の鏡で自分の姿を確認する前に、あたしに見せてくれたらしい。 改めて姿見でチェックしてもらうと、彼の瞳に光が灯った。 「これは……いい感じ、ですよね?」 「そうでしょう、あたしもそう思う。それ着て帰る?」 「そうします。能勢さんの隣を歩いて、恥かかせたくないし」 言われて初めて気付いた。 ダサい荻野くんの隣を歩いても、恥ずかしいと思わなくなっていたこと。 それだけ、彼とのショッピングに夢中になっていたんだろう。 お会計を済まして店を出る頃には、荻野くんは荻野くんじゃなくなっていた。 外見が変わっただけじゃない。 背筋が伸びて、足取りが軽やかだ。 視線だってほら、真っ直ぐあたしの目を見てくれる。 あたしはこれが見たかったんだ。 自分が素敵に見える服をまとえば、自分のことを好きになれる。 街中を歩いても萎縮せずに済む。 表情だって明るくなる。 内面が外見を変えることもあれば、外見が内面を変えることもあるんだ。 二つは表裏一体。 あたしが過去、身をもって経験したこと。 星を見ることで世界は変わるかもしれないけど、ファッションだって世界を変えるの。 あたしは、荻野くんがあたしの隣を堂々と歩いてくれたことが嬉しかった。 この変化が、他の女の子のためと思うと少し切なくもあったけど。
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