夏の終わりをコーディネート

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入道雲がうろこ雲へ衣がえした。 雲も空気を読んで、季節によって着るものを選ぶのね、なんて呑気なことを考えていた昼下がり。 穏やかな時間は、空気の読めない男子によってぶち壊された。 「能勢市夏(のせいちか)さん、自分を男にしてください!」 音楽室から二年三組の教室へ移動中だったあたしは、自分の名前を叫ばれて振り返った。一緒に廊下を歩いていた親友の美弥(みや)も驚いて、うわずった声のソイツを見た。 「え、なに、突然」 びっくりしすぎて言葉を失ったあたしの代わりに、美弥が反応する。 背後にぬっと立っていたのは、ヒョロリと背の高い黒縁メガネのクラスメイト。 同じ二年三組の生徒だけど、あたしは今まで話をしたことがない。いや、一度や二度は話したかもしれないけど、住む世界もしゃべる言語も違うような気がして存在自体、気にかけたことがない。 名前はええと……確か。 「荻野(おぎの)クンさァ、それ市夏への告白のつもり?」 隣であたしと腕を組む美弥が、眉を寄せてその男子を睨む。 そうだ思い出した。 名前は荻野透(おぎのとおる)くん。 「え? 告白? まさか、そんなんじゃないです。全然違います」 荻野くんは明らかに言葉を選び間違えたと気付いたようで、全力であたしへラブコールを否定した。 何これ、なんの茶番? なんであたしが振られたみたいになってんの。 「告白じゃないなら何? なんのつもりであたしに話しかけてきたわけ」 凄みを利かせて見上げると、ヒョロメガネくんはすっと視線を横に逸らした。どうもあまり、他人と目を合わせるのが得意じゃないみたい。 いるよね、そういう人。 彼の反応でいくらか溜飲を下げたあたしは、表情を和らげた。別にいじめたいわけじゃない。 とっとと真意を聞いて、この会話を終わらせたいだけ。 「ふぁっ」 突然、荻野くんの口から空気が漏れる。 「ファッションを、教えてほしいんです! おれをコーディネートしてください」
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