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最終話:蛙は田んぼでゲロゲロ鳴いていろ!
「それはね、蛙化現象よ」
「かえるかげんしょう~?」
沙美が神妙な面持ちで続ける。
「蛙化現象って言うのはね、好きな人が自分に好意があると分かったら逆にそれを嫌悪感として感じちゃうものなの」
「えぇぇ……」
「要するにリコ、あんたは恋に恋してたのよ!」
「えぇぇ!!??」
そんな事ある!? 二十四歳にもなって? 恋に恋? まるで少女漫画を愛する乙女のように!?
「いや、私は確かに少女漫画も溺愛小説も好きだけど、そんな事ってある?」
「あるわよ。あんたは脳内で柏木さんを王子様に仕立てあげて、理想の恋人を思い描いていただけなのよ」
私は愕然とする。
「私のこの夏の努力って何だったんだろう……」
重い女になりたくなくて、まずは処女を捨てるべく男を捕まえようと必死だった私。でも結局は捕まらなかったけど! 全ては柏木さんに見合う女になるためだったのに、何が蛙よ! 蛙なんて田んぼでゲロゲロ鳴いてれば良いじゃない!
「リコ……あんたはとっても幸運なのよ?」
「私が? どこが?」
沙美の顔は真剣そのものだ。
「あんたね、変な男に処女を委ねなくて良かったじゃないの。あんたにはコンプレックスかもしれないけど、初めてってとても大切で尊いものなのよ。本当に愛する人のために、取っておきなさい」
「でもまた蛙化するかもよ?」
「本当に縁のある人だったら、嫌悪感を持ったりしないわ。きっとそういう人が現れるから。大丈夫よリコ」
私の目から水分がとめどなく溢れて来る。いっそ沙美が王子様だったら良かったのに。
家に帰ったら、大好きな少女漫画を読もう。もう、背伸びなんてしない。溺愛小説の王子様みたいな人が現れるまで、じっと待っていよう。私のこの夏の努力は無駄だったけど、私はもっと大切な何かを手に入れた気がする。
「ありがとう、沙美。あんたが男なら惚れてたわ」
「そう、光栄だわ」
そう言ってハグしてくれた沙美の顔が、恍惚で歪んでいただなんて、私は知らない────。
────了
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