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ー|黄昏《たそがれ》ー
「巻き込んじゃってごめんね。私のせいで」
黄昏色の夕空、アスファルトに伸びる影法師。小説で描写で描かれているような場面で、何でこんなに悲しいことを言わなければならないのだろうか。そう、私は考えていた。
「今の問題は元は私が原因だから。私がこんな感情を持っていなかったら、こんなことは起きなかったもんね」
中学生が言うようなセリフではないが、これが今の私の心情だった。
クラスの人間関係が些細なことで問題化し、今のクラスは真っ二つと言っていいほどに分かれてしまった。
「陽菜が原因なんかじゃないよ。悪くない、陽菜は」
「凛久…?」
そして私のせいで問題に巻き込まれても、彼はそう真剣に私を庇ってくれた。茶色がかった瞳が、夕日と重なっていて綺麗で私にとっては切なげだった。
「でも、俺は嬉しかった」
「え?」
「――陽菜が俺のことを好き、って聞いて。俺、好きだったんだ、陽菜のことが」
突然、告げられた言葉に私は返事が出来なかった。
いや違う。出来なかったんじゃない、したらダメだったんだ。お互いの為にも。
「小学生の頃から好きだった。だから陽菜も――」
そう言いかけた時、街には夕方を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「…ありがと陽菜。じゃあ、今度話せる関係に戻る日まで」
「凛久…今なんて?」
「言ってないよ、何も。陽菜に聞こえないから俺は言わない」
さっきまであった夕日はもうない。空色もどんどん、薄暗くなり始めている。
「じゃあね」
ただ、それを言い残して彼は自分の家がある方向へと歩き出した。
大好きだった彼が、さっき「私を好きだった」と告げた。
耳元のチェーンピアスが、北風で揺れる。あーあ、言えなかった。最後まで彼は動揺しないで、冷静で落ち着いた人だった。
私だって、ちゃんと告おうと想っていたことがあったのに―。
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