戦時落語

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 さて、商家の若旦那に召集令状が届いた。大旦那や使用人たちはどんな騒ぎを起こすのか。 若旦那:ついに俺の所へ召集令状が届いたぜ 番頭:そいつは目出度いことで    大旦那、ここは一つ盛大に出征祝いを開きましょう 大旦那:いい考えだ。祝いの席には何がふさわしい 使用人1:おいらはビフテキがいいなあ 大旦那:ばかもの。贅沢すぎるわ。贅沢は敵だ 使用人2:それではトンカツは 大旦那:いい考えだ。トンカツは若旦那が敵にって意味で食べて     よい 使用人3:俺は飯よりも酒が飲みたい 使用人1:もう買ってありますぜ 大旦那:いくつ買った 使用人1:二本買った  え、オチが分からない。  いいのさ、オチなんて分からねえほうが平和だ。  どうしても教えてもらわにゃ気になって眠れねえ。  しかたねえ。教えてやるか。  噺の最後の『二本買った』をよく考えてみな。 『にほんかった』。『』。  そんなに驚くようなことかい。面白くもねえ噺だよ。  戦時中は創作落語もやっていてな。俺はバリバリの戦争少年だったよ。  そうだな。『山号寺号』て噺が得意で、戦争の話題ばかり考えていたよ。  この話は短いが歴史のある噺でな。1707年に出版した笑話本『露休置土産』の「はやる物は山号寺号」に載っている笑いだ。  え、知ってるって。  『山号寺号』の歴史は知らなかった。でも若旦那と幇間(ほうかん)が出てくる言葉遊びだってことは読んだことがある。  よく知っているね。  なに、最近落語のマンガが出た。  ほう、そいつは面白そうだな。  主人公は女の子。いいね。女性も落語をやる時代になった。  俺のころは女の落語家なんて見向きもされなかった。  いい時代になったものだな。  わたしは幇間を知らない。  ま、それが普通の反応だわな。  幇間てのはよ、酒席で主や客の機嫌をとる職業さ。  誰に対しても、持ち上げなきゃいけない仕事をしていると思えばいい。  ちょっとその根田やって欲しい。  仕方ねえな。こうして座布団に座っているんだ。まあやってやるか。
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