明晰夢

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満面の星空に私は手を伸ばした。 更に遠く。 もっと……まだまだ……。 手がなにかに触れた。 ドアノブだ、私が探していたもの。 (あった) ドアノブを勢いよく回す。 カチャ、と歯切れのよい音がしてそれは開いた。 ドアの向こうには真っ黒な部屋が広がっていた。 先程の星空と比較してもこちらのほうが明らかに暗い。 だが私はその部屋に足を運んだ。 足が暗闇の中に引きずり込まれていく。 後戻りはできるのだが、星空に戻ろうとは思わなかった。 ズズ……と私の体がどんどん吸い込まれていく。 ドアノブから手を離し、体全体を暗闇に預ける。 バタン、とドアが閉まり何もわからなくなった。 目を開けていても閉じていても見えるのは暗闇のみ。 自分の手がどこにあるかわからない状態。 そんなのでも私は手を上に伸ばした。 まだ……きっとこの向こうに…。 暗闇の中に一筋光が差し込んだ。 あぁ……待ってくれ。 まだ探しものは見つかっていない。 「そろそろ朝よ」 知っているからまだ起こさないで。 まだ見つかっていないの。 お父さんは言っていた。暗い部屋に入れば本当の自分自身に会うことができるだろうって。 なのに……まだおこさないで。 あぁ……だめだ。 影は光が嫌いだ。 目が完全に開いた。 「おはようもう朝よ」 「うん、おはよ!」 影は本体と話がしたくて、明晰夢の中をさまよっていた。 探しものを求めて。 完
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