しばらくお別れ

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

しばらくお別れ

 花珠星は、とにかく姿が元に戻る方法を探すことにした。透明なまま天葉と会話だけをするという選択肢もあるにはあったが、口先だけで誤魔化してしまった以上、本当のことを伝えて分かってもらうには、もう遅いと思った。 「この状況を、僕一人で解決できるとも思えないし……かと言って、地球の人間は手も足も出ないだろうな。人間の家に行くようなフリをしてしまったけど……宇宙人としての仲間を探そう」  花珠星は見た目は3歳の男の子だが、マノラマ=パタノケーカの一般的な大人と比べても大幅に歳を重ねており、地球に適応するための科学技術を実際に試す実験体として重要な立場にある。当然のごとくマノラマの重要な役職に就いている者とは協力関係にあった。  しかし、天葉の周辺を観測している者となると、実は一人もいなかった。地球に適応するだけで数万年単位で年月をかけ、研究予算も注ぎ込んでいるのだ。一つのプロジェクトに全てを懸けそうなものだが、いくら宇宙人でも、天葉に会いたいというだけで地球に来た花珠星を積極的に助けるほどの物好きはいない。要は、マノラミアだって、もっと重要なことを優先するということだ。  花珠星が今までマノラマの科学技術の恩恵を受けられていたのは、単に時間がかかりすぎる上に、見知らぬ星で本来の寿命よりも大幅に長生きすることに興味を持つ志願者が不足していたから。地球に来ている先輩も、そう多くない。 「先輩マノラミア……何人いるんだったかなぁ。まずは、あの人……何て言ったかなぁ」  花珠星は自分の本名すら忘れているくらいだから、先輩マノラミアの名前もマノラマ語で覚えてはいなかった。彼らも地球名を使っているので、それを思い出したいのだが、地球に来るときに、報告さえしておけば天葉と好きに過ごしていいと言質を取ってあった。地球人に擬態しているのに、わざわざ同郷の宇宙人と接触したくなるとは思えず、よく記憶しておかなかったのだ。  しかし、報告書を提出する用のデジタル端末に、パスポートのようなアプリが入っていて、そこに相談先として「旗羅原(はたらはら)小鞠(こまり)」の電話番号が記されていた。職業は「砂使い」。マノラミア以外には意味が分からないはずだが、ほとんど魔法使いに匹敵する最強の能力者だ。 「そうか、旗羅原小鞠さんに会いに行けば、大抵のことが解決できそうだなぁ。体の透明化のことも、もしかしたら突破口が開けるかもしれない」  花珠星は、微かな希望を抱き、望んだ未来に辿り着くために、天葉から離れることを選んだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加