砂使いの女

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砂使いの女

「もしもし……旗羅原小鞠さんの電話番号ですか?」  花珠星は、初めて地球に来て、人間で言えば3歳の姿をしているとは言え、マノラミアとしては、とっくに成人している。だから電話するくらいのことは造作もない。もちろん、その機能を備えた端末を持たされたときに説明も受けている。  しかし実はマノラミアの成人年齢の詳細は不明であり、身の回りのほとんどのことを自分でできることと、ある程度の年月を生きていることの他に確たる基準はない。もしかすると花珠星にも発達の遅れがあるかもしれず、それで困ったときには相談できるようになっているという面もあった。  なぜ不明なのかと言うと、一つにはマノラミアは発達した科学技術により本来生息不可能な星にまで棲みつき成長不良になっている個体が数多くいるために見た目では年齢が分からないことが理由で、もう一つは平均寿命が長すぎるために老化した個体が少なく、普通ならいつまで生きるものなのかという見通しが立っていないからである。  その中で相談を受ける役目をしている旗羅原小鞠は、あらゆる問題に対処することを求められるため、相当に高齢な人物であった。  当然のように首も回らないほど忙しいようで、不安になるほど長いコール音の後、明らかに不機嫌そうなピリついた声で応答があった。 「はい。そうですけど。その番号は咲溜花珠星様ですね。念の為に確認しますが、本人ですか?」 「はい」  花珠星は緊張で体を硬くしながら返事をした。  ちなみに、マノラミアは環境が変われば故郷にいたときとは全く違う姿に変わり果てていることも少なくないため、基本的にテレビ電話を使うことはない。もちろん声も変化してしまうことはあるのだが、全ての個体が現在の声を生来の声と同じ一定の声質に変換する機械を装着しており、それによって本人確認をしている。 「それで、何かお困りですか?」  高齢な上にピリピリしているとは言え、旗羅原小鞠はやはりマノラミアの女性なので、美しく耳触りの良い声で花珠星に用件を促した。 「はい。実は……鶏卵を食べてしまって体が透明になってしまったんです。このままでは地球の人間には僕が見えません。生活する上でも困りますし、友人とのコミュニケーションに支障が出ますので、一刻も早く解決したいんです」 「ふうん、なるほど。ご友人というのは依居刻天葉様のことですね? では、あなたにとっては恋人なのでは? いえ、まあそれは良いでしょう。鶏卵によるマノラミアの透明化については私も何一つ対処法を存じ上げませんが、天葉様が花珠星様を視覚的に認識できるようにすることなら可能です。今すぐ向かいますので、少々お待ちください」 「え、今すぐ?」 「はい。花珠星様の端末にも、花珠星様自身にもGPSがついておりますので、場所は分かります」 「いえ、そういうことでは……。え?」  花珠星が気づいたときには、東京上空を移動しながら砂が激しく渦を巻き、その中心から高速で吐き出されるようにしてマノラミアの女が渡来していた。  その迫力は地球のサイクロンなど比較にならないほどだったが、幸いと言って良いのか、マノラマ=パタノケーカに存在する砂の中には地球の人間には目視できない種類のものもあるため、さほど目立つことはない。地球上のどこにいても一瞬で来ることができるほどの速さでは、旗羅原小鞠の姿の方も、当然、地球人には見えないのだ。 「旗羅原小鞠さん……すごい人ですね」  驚いて目を丸くした花珠星に、彼女は豪快に笑いながら答えた。 「そりゃあね。私はマノラミア最高の砂使いだからさ!」  
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