幼なじみの独白

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幼なじみの独白

 僕は、咲溜(さだまり)花珠星(かずほし)という名前で、地球人である依居刻(いいとき)天葉(あまは)の幼なじみだ。  でも僕は本当は宇宙人で、天葉の知らない原理に従って生きている、異質な生命体。初めて地球に来てから2万年経っているおかげで、環境への適応能力によって人間と同じような体に進化できたが、それだって、太陽系外に存在する僕の故郷であり地球からは未観測の星「マノラマ=パタノケーカ」の高度な科学技術による手助けがなくては到底不可能な、非常に年月を要する挑戦だった。  僕は天葉が3歳のときに彼女と出会い、たわいもない会話をして友達になったが、その時点で僕はマノラマ=パタノケーカで過ごした時間を含めると既に2万1500年生きていた。  むろん宇宙人と言えど2万年以上も生きていては体も幼い天葉より歳をとってしまうのが道理だが、マノラマ(以下略)の、地球で言うと人間にあたる生き物の進化の頂点「マノラミア」は、元々小柄な体躯の上、地球上ではろくすっぽ成長できない、基本的にはマノラマやその周辺の衛星など生まれ故郷と条件の近い環境でのみ活動できるという特徴があったため、実際は2万1500歳である僕も3歳の天葉とあまり違わない見た目でいられた。  咲溜花珠星というのは、もちろん地球名だが、地球で暮らす上でマノラマでの名前など覚えていても煩わしいだけなので、とうに忘れてしまった。  地球でも150年前に「苗字改名ブーム」というのがあったらしく、それまでフィクションでしか存在しなかった苗字を名乗ったり、そもそも宇宙人で初めて作られた文字列を苗字として戸籍登録したりするのが流行し「下の名前」限定だったキラキラネームが、言わばキラキラフルネームにまで拡大していた。天葉の「依居刻」という苗字も恐らくこのときに作られたのだろう。  僕がここまでして地球に来た目的は、気づいた人は気づいたと思うが、天葉に会うためだった。こんなことを言うと馬鹿にされるか もしれないが、運命の人だと思ったのだ。  マノラマでは眠っているときだけではなく起きていても夢を見ることがあるが、特に日中でありながら眠りに引きずり込まれるかのようにして見た夢は宇宙のお告げとして未来予知の類とされている。むろん日中と言っても太陽が出ているわけではないが同じような恒星があるので便宜上そう呼ぶことにする。地球でも白昼夢という言葉があるが、まあそれに近いようなものだ。  その夢で僕は天葉と地球で過ごしている自分の姿を見た。あまりにも幸せで甘美ですらあるような感覚が湧き「この子こそは運命の人だ」と確信し、心理的エネルギーで満たされた。  そして僕は居ても立っても居られなくなり、地球で言うところの「宇宙飛行士」の職に志願し、わざわざ暮らしにくい地球の探検を希望して、科学技術の研究にも精を出し、やっとの思いで天葉との接触にこぎつけたのだった。
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