0人が本棚に入れています
本棚に追加
母は自分が幼い時に他界した。だから母のことはあまり覚えていない。
そして一人で育ててくれた父も大学生の時に。
「そうだな……」
「そうだなって、止めてはくれないのか?」
こんな状況で上っ面だけの言葉などに価値はない。それに、少なからず。
「それもありだな」
少なからず、頭のどこかで自分が思っていることでもあった。
「お互い、本当の意味で独り身だからな」
その言葉がよりその思いを強いものにしていた。
****
「お疲れ様です」
「ありがとうござい……あ、久しぶりですね」
「お願いします」
「はい。最近来てなかったので安心してました。今日は当たり前のように休日出勤されてますけど……」
もちろんこの店に来ていなかっただけで、休日出勤がなかったわけではない。思い上がりかもしれないが、心配をかけてしまうと思ったからだ。
「顔色が……」
マスクはしているが、目元のクマは隠せなかった。
「休日に出勤はしてますが」
「え?」
「その分、他の曜日に休みはもらってます。なので心配はいりません」
嘘だ。そんな都合のいいことができるわけがない。
でも、そんな嘘も確かめようがないのならそれは本当になる。
「これから大変なこともあるかもしれませんが、あなたも頑張ってください」
「……」
「ありがとうございました。来れたら、また……」
自分の身がどうなろうと心配する人はいない。それはつまり、悲しむ人がいないということだ。
これから、なんて保証がないのはこの国も人間も同じだ。
何十年、何百年先の未来、世界が発展している以前に、今と変わらず人間が生きていられるという最低保証すらないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!