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プロのスポーツ選手やパイロットなど、誰もが一度は憧れるキラキラとした未来を描いていたこともあった。それは年を追うごとに廃れ、いつの間にか「最低限の生活ができればそれでいい」としか思えなくなっていた。
今となればその最低保証も、何も知らないクソガキのただの戯言だ。
「休日出勤ですか?お疲れ様です」
「……それはお互い様でしょう」
「私は休日だけですので。平日は学校があってなかなか……」
店員さんがレジを打ってる間に、いつも通り財布からお金を取り出す。
「三百八十五円になります」
「……あれ」
取り出した小銭と値段が合わない。
「ああ、増税に伴って値上がりしちゃったんです。すみません」
「いや、あなたが謝ることでは……」
出していた小銭を財布にしまい、新たに取り出した千円札を差し出した。
「ありがとうございます!頑張ってくださいね」
どんどん生きづらい世の中になっていく。
寝る間も休日も返上で働いても当たり前のようにお金は搾取され、一向に貯まらない。お金だけでなく、余裕も無くなり気力もやる気も削がれていく。
ご飯を食べて、風呂に入って、寝て起きて、働いて、働いて、働いて。
****
「最近どうよ?」
「どうもこうも、何もない」
「まあ飲め飲め。飲まなきゃやってられないからな」
「……もう止めとくよ。明日も朝から仕事だし」
「俺もだ……」
飲まなきゃやってられない。父もよくそう言ってお酒を飲んでいた。
酔っぱらった父は嫌いだった。面倒くさい絡み方してくるし、布団に行けばいいものを電気もテレビもつけっぱなしでその辺で寝てるし、弱いからすぐ吐いてたし、何より臭いし。
「……何かいいことでもあったのか?」
「ねえよ。あるわけないだろ」
「じゃあなんでそんなにヘラヘラしてるんだよ?」
「……やってらんないだろ。物事軽く考えてヘラヘラしてないと」
「……」
「でもやっぱ、そううまくはいかないもんだな」
自分は付き合い以外ではお酒は飲まないと決めていたはずだった。
そいつの言う通り、やっぱ、何事も。
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