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ヤバい奴と友達になっちまった
いやぁ〜、コロナとか本当ウザいよね。俺、
飯名湖(いいなこ)浪夏(ろな)って名前なんだけど、コロナウイルスとかいう病原菌が出てきてから、デリカシーのない奴にからかわれたり、妙な正義感を持った神経質な奴に絡まれたりも増えて、人生ろくなことがねえ。
せっかく高校デビューしようと思ってたのに、可愛い子を探して教室や部活を渡り歩けないどころか、授業すらリモートで、自宅から動きもしないでタブレットを見つめる毎日が始まる。
だったら名前に因縁を付けられる機会もないだろうと思うかもしれないが、昼休みや放課後に生徒同士でとか担任の先生と交流する用の掲示板があって、発言する度に俺のコメントに「飯名湖(いいなこ)浪夏(ろな)」とご丁寧にふりがな付きで名前が表示されるもんだから、自己紹介で先生に名前イジりされるまでもなく、学校中の皆が俺の名前をウザがっている。
ウザいのは俺や俺の両親ではなくコロナのはずなのだが、面と向かってそう主張するのも面倒なので、妙な空気になってしまうのは仕方ないと諦め、むしろなるべく話しかけたりしないことで被害を最小限にしようという方針で、窮屈な思いをしながらリモートでの学校生活を送る予定だった。
ところが、そんな俺に嬉々として話しかけてくる酔狂な男が一人だけいた。
「おい浪夏、お前めっちゃ晴れ男みてぇな名前だよな! いかにも高校デビューのためにチャラ男路線に変更しました~って顔してるし、根が真面目なのが溢れ出てて逆にモテそうじゃん! てことは、俺はお前について行けば女の子漁りが捗るな! あっ俺の名前は「真坂(まさか)李克惟(りかつい)。よろしくな!」
いかにもヘラヘラ笑っていそうなイメージのコメントだ。
俺は、初対面で早くもウンザリし、ある意味俺と同じ第一印象最悪なこの男に返信した。
「何お前……コメントは文字になって残るんだぞ。勝手に恥ずかしいこと書くなよ」
するとすぐに次のコメントが来て、
「まぁまぁまぁまぁ。お前、なぜかコロナの申し子みたいな扱い受けてるから、ヘルプじゃ~ん!」
というお節介な内容が目に入る。
「知ってたのか」
「当然だね。俺、第六感が鋭いから、名前見るだけで友達になりたいような奴かどうか分かるしぃ~」
「分かんねぇよ」
「じゃあ聞くけどさ、真坂(まさか)李克惟(りかつい)なんて言う金太郎をイメージしちゃう名前の俺と友達になりたい?」
俺は数秒間、形だけ考え込み、
「なりたくねぇ」
「だよね~! だけどお前の名前からも何となく同じ匂いがするわけ。てことは気が合うんじゃね!? 仲良くしようぜ!」
飽くまでも友好的なつもりで来る李克惟に、頑として抵抗の構えをとった。
「嫌だ」
「まぁまぁまぁまぁ。嫌と言えばリモート授業だよね」
「急に何」
「俺思ったんだけどさ~、俺らの高校生活って、リモート授業だし、旅しながらでもできるんじゃね? 一緒にどうよ?」
そう聞いたとき、俺はついこう答えていた。
「お前……天才かよ!」
さすがに、口に出してしまうのは仕方なかったにしろ、こんな変な男を賞賛する言葉を、学校で使っている端末で掲示板に書き込んでしまうなんて迂闊だったと思う。これでは誘いに乗ってOKの返事を出したも同然だ。
けど、もう後の祭りだった。
「じゃ、そーゆーこと! 俺と日本横断の旅しようぜ! 今日のうちに準備しとけよ!」
マジかよww どうしよう。ヤバい奴と友達になっちまった。
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