そういや学校の許可は降りてんのか?

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そういや学校の許可は降りてんのか?

「どうしても喋ってたいって言うんなら、独り言だって自覚を持って、俺の反応を期待しないと約束してくれ、と言いたいとこだが。実は真坂に聞きたいことがある。学校には、旅をしながらリモート授業を受けるってことは言ってあるのか?」  俺は、一抹の不安を感じながら、既に用意してしまった大きめのリュックを見つめ、安易に浮かれた自分の迂闊さを突きつけられているかのような焦りから目を逸らそうとしていた。  しかし、真坂は当たり前のように開き直っていた。 「言ってないに決まってるだろ! リモート授業は、どこにいても受けられる。遊びに行った先でチョチョイとログインしてたって誰も分からない。だからこそ俺はやってみようって提案したんだからな」  大真面目にそんなことを言ってふんぞり返っている真坂を見て、俺の腹の底には今更だが怒りがふつふつと湧いてきていた。  いや、俺だって、わざわざ真正面から「旅をしながらリモート授業を受けたいんですけど、学校の許可をいただけないでしょうか?」なんて言い出して、せっかくの面白い思いつきをふいにしたくないという気持ちがなかったと言えば嘘になる。なあなあにして、ルールの裏を突いたような得意げな顔をして、周りを騙しながら自分たちだけ得をしようとしていたのだ。  だからって、乗りかかった船だと言い切れるほど、問題児ではないつもりなのだが。 「おいおい浪夏。今なら優等生に戻れると思って考え直したそうな顔だな。今日はお前の両親が家を空けてるから絶好のチャンスなんじゃないのか? 家を飛び出して、女の子と出会うチャンスを探しに行くなら、絶対に今日だぞ」  真坂は何の疑いもなくそう言い、昔からの親友かのように俺を呼び捨てにしていたが、冗談じゃない。頭を冷やして考えれば、両親に何も言わずに家を何日も空けるなんて、一介の高校生にできる所業ではないのだ。誘拐事件だとか非行とか、とにかく事件だと思われて、警察に探されるのがオチだ。  俺は、不良少年にされて大目玉を食らうくらいならまだしも、補導されて大人たちから白い目で見られるのは嫌だった。よほどそう言ってやろうかと思った。  だが、俺にはできなかった。代わりにこう言っていた。 「俺は、お前と同じ、はみ出しものだ。だから共感した! 仲間なんだ! お前のやりたいことを否定したくない。一緒に行ってやる!」  それは、自分の意志で言ったかさえはっきりしないほど、勢いよく口を突いて出た言葉だった。  本当のところは、どうしてだか分からない。だが俺は、閉塞感に押しつぶされそうな世相の中で、感染リスクを冒してまでも自由を得たいと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
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