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「どういうことなの? ジュン君知らなかったけど? あなた好きな人を騙すつもりだったの⁈」
アメリアさんがジョーイを連れてきて、カンカンに怒っている。
「ジョーイ、説明してくれる?」
僕は話を聞かないとどうしようもないと思い、やんわりと切り出した。
「け、結婚許可証を取りに行こうと思って……」
「結婚許可証?」
何の事だかよくわからない。
「アメリカでは、まず結婚許可証をもらって、それから結婚式を挙げて、結婚したことになるの。役所に行かないと、許可証はもらえないから……」
「僕聞いてなかったよ、その話……」
「だって、ジュンが、ずっと側にいてくれるようになるにはこれしかないもの! 私とのツアーが終わったら、帰っちゃうんでしょ……?」
涙声で話すジョーイを見て思う。僕の気持ちがきちんと伝わってないみたいだ。
「アメリアさん、二人で話してもいいですか?」
「もちろん。むしろしっかり話してきてちょうだい。結婚しないとツアーに出ないとまで言ってるんですもの!」
ジョーイの手を引いて、中庭に向かった。池の側にあるベンチに二人で腰かけた。
「ジョーイ、ちゃんと話してくれる?」
僕は彼女の手を両手で包んで静かに言った。
「私、ジュンとずっと一緒にいたいの。家族になりたいの」
「うん」
木漏れ日が真剣な表情のジョーイを照らした。
「まだ若すぎるかもしれないけど、でも、ジュンが私の人生からいなくなるのは考えられない。仕事ももっと頑張るし、スタッフ困らせるワガママも言わない…‥‥だから……」
ジョーイが泣きそうになりながら僕を見る。
「だから、私と、結婚してください!!」
彼女の良く通る声が中庭に響いた。
「――もちろんだよ! 僕で良ければ!!」
僕が抱きしめたのに、キスされたのは僕の方だった。
「愛してるわ、ジュン!!」
キスを降らせるジョーイを落ち着かせて、僕らは待っているアメリアさんに、ちゃんと話をしました、結婚します!と報告に行った。
その翌日、僕たちは結婚証明書を取りに役所に向かった。正式な結婚式は役所の人か、牧師さんや神父さんなどの結婚式を執り行う資格がある人しかできないそうで、僕らは少し戸惑った。
「え? 結婚式をする? それはおめでとう。決心したんだな。彼女をよろしく頼むよ。ところで、証明書はあるのかい?」
「はい、先日取り寄せました。でも役所で済ませようかどうしようかって」
ミスタージャクソンはにんまりと笑って親指を立てた。
「おー、ジュン、役所なんて行かなくても大丈夫だ。俺は、元々牧師なんだよ」
ジョーイの仕事を2日間オフにして、ジョーイの家族と身近なスタッフ達を呼び、ミスタージャクソンが牧師として執り仕切り、ジョーイの邸宅で小さな結婚式を挙げた。日本の家族はオンライン参加だ。
「良かったの? ここで」
「うん、外に出たら、大騒ぎになっちゃうもん。それに、ここで挙げたらいつだってケンカした時も思い出せるでしょ?」
初めて彼女を動画で見て好きな声だなって思っただけだったのに。その人が僕の妻になる。
「僕には何もないけれど、君を好きなことにかけては誰にも負けないよ」
「知ってるよ、一番最初の……私のファンだもの。あなたの声があればいい」
彼女を支え続けよう。それがきっと僕の役割だ。
この手をずっと離さずにいよう。
木漏れ日が差す中庭で、僕たちは愛を誓った。
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