舞い込んだ大チャンス

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舞い込んだ大チャンス

 今は知らない人がいないくらい大スターの彼女。  僕は彼女をデビュー前から知っている。  最初に歌っていたのはYouTubeで見た動画だった。既存曲をカバーをしている動画を漁り、世の中には歌が上手い人ってたくさんいるんだな、と思っていたところに、歌う彼女に出会った。  僕よりも年下なのに、こんな声で歌うなんて。大人みたいに歌うくせに、伝わってくるのは十代の切なさだ。彼女の声が細かく震える度に僕の心も震えた。すごい人がいる。僕も負けてはいられないな。  最初は彼女もコメントでやり取りしていたけど、すぐにレコード会社から声が掛かり、メジャーデビューが決まってからはもうコメント自体ができなくなっていた。 「ああ、遠くに行っちゃったなあ……」  やり取りしたコメントはスクリーンショットしていたから、今では僕の宝物だ。  僕も歌を頑張ろう。大好きな歌を歌っていられたら僕はそれだけで幸せだ。 「ジュン君、ちょっといいかな?」  所属している事務所の人に呼ばれた。今日は定期的に顔を出す日だ。  僕は歌手になりたくて地道に活動している。やっと最近になって、バックコーラスの仕事をもらえるようになった。その曲の良さを壊さず、その時のコーラスの人と声を合わせるって結構大変だ。すごく勉強になる。 「はい、何でしょうか?」  新しい仕事だといいな。 「ジュン君、パスポート持ってる?」 「え? 持ってますけど……?」 「Pさんのワールドツアーのコーラス、やってみる気ある? しばらく帰ってこれないけど」 「僕がですか?!」  Pさんというのは、僕の事務所所属の一番の実力者で売れっ子のミュージシャンだ。今年はワールドツアーをすると言っていたから、スタッフは皆忙しそうにしていた。 「うん。先輩のコバさんが急病でね。同じ音域で声域広くて近い雰囲気の声ってジュン君しかいないから」 「やらせてください! 行きます!」  今年は海外で仕事がしてみたい、と願掛けでパスポートを取ったばかりだった。幸先が良すぎて怖いぐらいだ。 「出発は一か月後。半年は帰ってこれないから、そのつもりで準備してくれ。細かい事はこれに書いてある。リハーサルにはもう入ってるから、明日から参加ね。あとギャラは、先輩と同じ額だぞ! 喜べ!」 「マジですか⁈ やった! じゃあ、バイト先に話してきます!」  僕は急いでバイト先のカフェに走った。  先輩と同じ額のギャラだって?! 先輩はコーラス専門の人で、もう長らく活躍している人だ。ここで頑張ればきっと、止まっている僕のデビューの話も動き出すはず!  僕は期待に胸が膨らんだ。
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