25人が本棚に入れています
本棚に追加
ホテルに着いて、僕はエレベーターに飛び乗った。どうして行きたい部屋は一番上の方なんだろう。
エレベーターのドアが開くと知らないボディーガードに捕まった。
「君は誰だ?」
「ジョーイに呼ばれてきました、僕はジュン・キムラと言います」
「聞いてないぞ、そんな来客は」
190㎝以上ある、ガタイのいい、まるでシュワルツェネッガーみたいなボディーガードが近づいてくる。
「じゃあジョーイに連絡しますから」
と尻ポケットに手を伸ばした瞬間、銃を向けられた。
「動くな! 動いたらこの場で撃つ」
「僕は、ジョーイの友達です!」
「ゆっくり両手を挙げろ!」
ブルブルとスマホが震え出した。きっとジョーイだ。君は歌の世界のお姫様だね。でも守られているのにちっとも幸せそうじゃない。
僕はゆっくりと両手を挙げた。
「ジョーイに訊いてくださ……」
「うるさい! 喋るな! 黄色いサルが!」
冷や汗が出る。銃を向けられるなんて生まれて初めてだ。そしてあからさまな人種差別を受けるのも。そうか、アジア人の男の友達がいるなんて思いもしないよな。ジョーイは混血だけど白人の女の子だ。
まだスマホは震え続けている。
ジョーイ。
扉を開ければ、すぐ側にいるのに。
ポーン、と音がして、エレベータの扉が開く。
「何をやっているんだ? ミスタースミス」
呆れたような深く低いこの声は……。
「不審者が侵入しています! コイツです、ミスタージャクソン」
「……ミスタースミス、銃を下ろせ。この人は来客だ」
「そんなわけがないじゃないですか、こんな黄色い子ザルが」
「聞き捨てならないな。俺はもっと色が濃いが何か問題があるか? ん? この方は、ジョーイさんの昔からのお知り合いだ」
ミスタージャクソンが電話をかけ始めた。
「ジャクソンです。ジョーイさん、ジュン・キムラさんが来てますから、廊下に迎えに来ていただけますか?」
程なくジョーイが大きな扉を開けて走ってきた。
「ジュン!」
思い切り僕に抱きついてくる。
「ミスタースミス。そういう訳だ。ビル・ウィザースが好きな人間に悪い奴はいないって覚えとけ」
ミスタージャクソンは彼の肩を叩いた。何かジャクソンさんが囁いていたけど聞こえなかった。ミスタースミスの顔はすっかり青ざめていた。
「ミスタージャクソン、ありがとうございます」
「ジュンさん、ごゆっくり。ライブ良かったぞ」
「来てくれたんですか⁈」
「さっきまで非番だったからな」
ミスタージャクソンはニヤリと笑って、親指を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!