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また会うために
「一体何があったの?」
ジョーイに経緯を話す。
「あなたに銃を向けたですって⁈ やり過ぎよ! ミスタースミスは前からベタベタ気持ち悪かったけど、もうダメだわ。解雇する!」
「まあ、ミスタージャクソンと相談してよ。安全のためだと思うしさ」
「ううん。私も移民の子供だから色々言われてきたもん。自分が選べないことで人をどうこう言う人はダメだよ。ましてや銃を向けるなんて……ごめんね、恐ろしい思いをさせて」
ジョーイが俯いて悲しそうな顔をした。
「あーマジで怖かった!」
僕は日本語で叫んだ。
「でも生きてジョーイに会えてよかったよ!」
「何て言ったの?」
「”とっても怖かった”」
「ほんとにほんとに、ごめんなさい……」
ジョーイが泣きながら僕にしがみついた。僕も今頃になって身体が震え出して、彼女の身体に腕を回して、自分が生きていることを確かめた。柔らかくて暖かい身体。生きていなかったら、歌うことも話すことも、こうやって触れることもできないんだな。
「私、やっとジュンに会えたのに、あなたが死ぬなんて絶対イヤ」
「うん…‥僕も」
「ねえ、お願い、今夜は一緒にいて」
「うん。僕の方からお願いするよ。今夜は怖くて一人で眠れそうにない」
ジョーイは僕の体の震えが無くなるまで抱きしめさせてくれた。
「……私が人の役に立ったの、初めてな気がする」
「そんなことないよ。君は歌でたくさんの人を救ってる」
「そんなの、目に見えないもの」
「世界中の人がジョーイの曲を聴いてるじゃないか」
「私は、今リアルにこうやってあなたの役に立てて嬉しいの。それは認めてよ……」
昨日みたいに、いや昨日よりもジョーイは僕の上に乗っかっていたけど、もう嫌じゃなかった。
「認めてる。ありがとう、ジョーイ」
「今日は魔法みたいに座らせないのね」
「うん。役に立ってもらってるから」
僕はジョーイをギュッと抱きしめ直した。
「うわ! く、苦しい…‥Muscle Rabbitの理由が分かった気がする…‥」
「わ、ゴメン」
慌てて力を緩めると、ジョーイが微笑んだ。
「……ねえ、お酒飲もう?」
「どんなのがあるの?」
「一緒に見よ?」
ジョーイは僕の手を引いてバーカウンターまで行った。
「こんなのあるんだもんなあ」
「どれにしようか? あ、これ韓国のお酒、流行ってるらしくて持ってきてもらったの」
「あ、それ! 日本でも流行ってるお酒だ。これにしようか。ありがとう」
僕は緑の瓶をグルグル振って、瓶の蓋を開けた。
「なにそのパフォーマンス!」
ジョーイがケラケラと笑う。
「こうしたら美味しくなるって、友達が教えてくれたんだ」
私も飲んでみたい、とグラスを持ってきた。
「わー、果物のフレーバーがして美味しいね!」
僕たちはソファに座って、飲みながらのんびりと話をした。小さい時はどういう子供だったか、どんな食べ物が好きで、今何にはまっているか。何も特別なことは無い友達同士の会話をした。それがとても楽しかった。
「マシュマロって焼いたら美味しいでしょ? 小学生の時に、私マシュマロをあっためたらいいんだって思って、レンジにかけて大爆発! それも皿に山盛り! レンジは壊れちゃったし本気でママに怒られたわ。あれはほんとにやらかした!」
「当分マシュマロ禁止だった?」
「もちろん! 一年は我が家でマシュマロを見なかったよ! ジュンは?」
「うーん、面白い思い出かあ……そうだ、高校生の時に文化祭で劇の出し物で、女の子の代わりに歌ったことがある。前日からその子が風邪ひいちゃってさ。とても歌えないっていうんで、ピンチヒッターで。でも女性の音域は高すぎてきつかった」
「え? ソプラノ?」
「まさか。アルトで精一杯だよ」
「今はまだ楽に出るでしょ?」
「鍛えたからね」
喉を鍛える、なんて言い方変かもしれないけど、僕にとってはそういう感じだった。
「……ジュンは、努力家なんだね」
そう言ってジョーイはグラスの中の透明な焼酎を飲み干した。マスカットの香りがふわっと漂う。
「ライブが上手くいかなかったなんて、甘えたこと言ってられないね……」
そう呟くと、次は私のおすすめ飲んでくれる?と彼女は笑った。
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