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「私、シャワー浴びてくるね」
突然ジョーイがそう言って席を立った。
「え? もうそんな時間か。明日もライブだもんね」
時計は0時を回っていて、明日出発する僕も寝ないと、7時の出発に間に合わない。
「ジュン、シャワーどうぞ」
キャラクターのついたパジャマに着替えたジョーイは、すっかり普通の高校生の女の子に見えた。僕は学校の合宿みたいだな、部屋がゴージャスすぎるけど、と思いながらシャワーに入った。
「あーすっきりした」
と独り言を言い、頭を拭きながらシャワーを出ると、部屋の灯りが落ちて、間接照明だけになっている。全く違う部屋の様子に僕は戸惑った。
「ジョーイ? どこ?」
首を回してジョーイを探した。
「……ジュン」
ジョーイが背中から抱きついてきたから、思わず身体ごと振り向いた。彼女はさっきのパジャマじゃなくて、セクシーなランジェリーを身に纏っていた。
「ジョーイ、どうしたの」
彼女の肩が間接照明の光を浴びて白く光る。
「もう会えないんでしょ、ジュンと……」
抱きついたジョーイが上を向いて僕を見た。鳶色の瞳が潤んでいる。
「……僕は、君の”一晩限りの思い出コレクション”の男になるつもりはないよ」
「ジュン……!」
彼女はショックを隠し切れない表情をしていた。でも、その通りなんだから仕方ないよ。行きずりでそういう関係になるみたいなのって、どうしてもできないんだ。
そのまま僕は、ジョーイの手を引いてベッドまで連れて行った。そこにはさっきのかわいいパジャマが脱ぎ捨てられていて、それを拾うとジョーイに着せた。
「ジュン、私のこと嫌いなの……?」
泣き出すジョーイに僕は伝えた。
「ジョーイ、君を大切にしたいし、また会いたいから、そういう事はしないんだよ」
「……いつかまた会える?」
「僕達友達だろ? また会おうよ」
それが何時になるかわからないし、もう会えないかもしれないけど。
「ほんとに、ほんと?」
「うん、だから、眠ろう」
僕は嘘を吐いたことになるのかな。また会えるなんて、確率の低いことを。
おやすみのキスをお互いの額にして、僕たちはキングサイズのベッドで、手を繋いで眠った。ゴロゴロ転がって、二人ともひどい寝相で、ほんとうに学生の合宿みたいだった。
翌朝、僕は6時に起きた。ジョーイはまだ眠っている。起こさずにこのまま行こう。
「またね、ジョーイ、会えて嬉しかった。僕、頑張るから」
僕は彼女の頬にキスをして、部屋を出た。
「レンさん、おはようございます」
「ジュン~! おはよう。腹は治ったか?」
レンさんが笑顔で挨拶してくれた。
「で、ちゃんと彼女には会えたのか?」
ひそひそ声で訊いてくる。
「あ、え、まあ……」
ニヤニヤ笑うレンさんが、そういえば、と話を変えた。
「ここのホテル、ジョーイ・ワトキンスが泊まってたらしいぞ! まさかあの歌姫と同じホテルに泊まるなんてなあー!」
僕は顔色が変わったのを悟られないようにするのが精一杯だった。
「マジですか~⁈ すごいですね!」
レンさんは僕の返事を聞いて、アレ?という顔をしたが、軽く首を横に振って、
「……まさかな」
と呟いた。
「え……? 何がですか?」
「いいや、俺の勘違いだ。次の街に行くか!」
レンさんはそう言うと、僕と肩を組んだ。
さよなら、ジョーイ。思い出をありがとう。僕たちコーラス隊は次のライブ先に向かった。
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