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「ジュン君、元気にしてたか? 」
レンさんと久しぶりに会い、レンさん行きつけの居酒屋で飲んだ。焼き鳥が美味しいとかで、最初からそれを頼んだ。
「レンさんは、事務所に残られたんですか?」
「ああ。コーラスは求められたことをやる仕事だから。仕事内容は変わらないからな。ジュン君は辞めたんだろ?」
「……はい。全く違うことはできそうにありませんでした」
「表現者はそれが無いとな。売れれば何でもいいってならもうやってるしな」
僕の選択はきっと幼い考えだと思う。自分の歌いたい音楽にこだわって。なのにレンさんはそれを馬鹿にせず、認めてくれるような言葉をかけてくれた。
「……はい」
「なかなかできる事じゃないぜ、ソロデビューなんてさ」
「でもそれは……僕の力じゃなかったです」
グラスの中の氷がカラリと音を立てた。
「違うよ、お前の歌声がジョーイ・ワトキンスに認められたからこそじゃないか。もっと自信持ってくれよ、一度はメジャーデビューしたんだぞ!」
レンさんが笑顔でうつむく僕の顔を下から覗く。
レンさんもデビュー直前まで行ったと聞いた。ただ、その時に家族の大病が発覚し、看病かデビューかの選択を迫られた。家族を選んで、デビューの話は無くなってしまったらしい。
自分よりも家族を大切にするような優しい人が先輩で、こうやって時間を作って励ましてくれている。僕は幸せ者だ。
「はい……だから、自信を持ちたくて、今自分でアルバム作ってるんです」
僕はレンさんの目を見ながら言った。いつか、レンさんにもらった気持ちに報いたい。
「よし! その意気だ! コーラス必要ならノーギャラでやるから呼んでくれよな」
「嬉しいです、ありがとうございます!」
大丈夫だ。まだ僕には音楽と仲間がいる。
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