音楽と僕と君

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 その3か月後。  ジョーイのアルバムは無事にリリースされた。彼女はプロモーションで忙しいけれど、帰ってこれる場所にいる時は家に戻り、泊まりの時は必ず電話を掛けてくる。 「ジュン、帰ったら絶対にフルーツいっぱいのパフェ一緒に食べて!」 「もちろん! 美味しいプロテインバーも準備しとくよ」 「それジュン用でしょ~⁈ Muscle Rabbitさん」  DJCookieは他にも2曲ほどアレンジを担当し、アレンジャー、コ・プロデューサーとしてジョーイのアルバムにクレジットされた。  そして僕は、名もないアジアのシンガーが、ジョーイとデュエットしてるぞ! あいつは誰だ? 昔TwitterやInstagramで言ってたあのシンガーか!ということでしばらく人々の話題に上った。  おかげでインディーズで出したアルバムも、あのDJCookieも関わっているぞ、と話題になり、そこそこ売れて多くの人に聴いてもらうことができた。 「ねえジュン、アルバム出したから次はツアーなんだけど……来てくれるよね?」  プロモーションから戻ったジョーイが、山盛りの豪華なフルーツパフェを食べながら、不安そうに訊いてくる。レコーディングに参加する為に滞在する、という約束の半年は過ぎていたからだ。 「僕はジョーイとこうしていられることが幸せだし、一緒に歌えたら嬉しいと思ってる」 「ホントに⁈ やった! アメリアに契約書作ってもらう!!」  ジョーイは生クリームを口の端につけたまま、長いフォークを持って万歳をして抱きついてきた。 「ジョーイ、もしコーラスを他にも探すなら、僕が一番好きな人がいるんだ」 「誰?」 「僕にシンガーとしての大事なことを教えてくれた人。レンさんて人なんだけどね……」 「どんな声の人なの?」  その夜はベッドでジョーイに、レンさんの歌声をたくさん聴かせた。  アメリカは契約社会だ。一つ一つの仕事に契約書がある。  ツアーコーラスとしての契約を結ぶために、僕は事務手続きをしていた。 「ここと、ここにサインしてね」 「アメリアさん、引き続きよろしくお願いします」 「こちらこそ! あなたがいるとジョーイが落ち着いてて仕事がやりやすいわ」  アメリアさんがパーマヘアを揺らしながら大きな笑顔を見せた。 「それなら嬉しいです」 「あ、そうそう。運転免許証とパスポートを準備しておいてね? 明日向かうから」  何か手続き上に必要なのだろうか? 「?……わかりました」  目を丸くしたまま、僕は返事をした。 「あれ? もしかして、ジョーイから聞いてないの?」 「何の事ですか??」  アメリアさんは腕を組んで頬を膨らました。 「全くもう、あの子ったら……! ちゃんとジュン君と話すって言ったのに!」  ジョーイ!!と叫びながら、アメリアさんは彼女の部屋に向かった。
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