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一通り、患者を治療した後で、ファサル国王の番になった。
ファサル国王が、診察室に入って来た。
「今回の傷は、顔と肩と、それに背中ですね……」
リナールが、あらかじめ聞いていたのか、言った。
「ああ、頼む」
ファサル国王はそう言うと、服を脱いだ。
背中を見たわたしは、思わず顔を背けたくなった。
ぱっくりと割れた背中の傷からは、血が滲んでいた。
わたしを庇ってできた傷だ。
わたしは、申し訳なさでいっぱいになった。
リナールは、その傷を診て、言った。
「縫合が必要ですね……。サラ、針を炎で消毒してくれますか?」
「あ、はい」
わたしは、そう答えたけれど、原始的な消毒方法だ。
そんなことはしたことがなかったが、知識だけはあったので、リナールが出して来た針を、アルコールランプの炎で消毒し、白い糸状のひもを通して、リナールに渡した。
リナールは、奥から、小瓶を持って来た。
そして、ファサル国王に言った。
「この薬を飲んで下さい。わずかですが、鎮痛剤になると思います。……しかし、痛みますよ……すみません」
「構わぬ」
そう、ファサル国王は、ひとこと言うと、小瓶の薬をグッと飲んだ。
「では、縫合します」
リナールは、そう言うと、真剣な表情になり、ファサル国王の背中に向いた。
背中の皮膚を突いて、縫っていく。
わたしは、その痛みを想像して、見ていられなかった。
しかし、ファサル国王は、一言も弱音を漏らさなかった。
縫合が終わった。
「世話になった」
ファサル国王は、そう言うと服を着た。
すると、診察室のドアが開いて、村人たちが、雪崩れ込んで来た。
「ファサル様! 大丈夫でしたか?!」
「ああ、大事ない」
ファサル国王は、心配そうな村人たちに笑顔で言った。
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