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プロローグ
「なぜ、あなたは、そこまでして人を救おうとするのですか……? このままだと、あなたの方が死んでしまいます……」
わたしは、そう言うと、涙が溢れた。
彼は、わたしの、その涙を指で拭うと、優しく囁いた。
「だから、私を哀れに思った神が、そなたを私に遣わしたのであろう……」
そして、わたしを、そっと抱きしめた。
わたしは、その時、誓った。
わたしの全身全霊をかけて、彼を守ると……。
*****
ああ、また夜勤じゃないのに、十一時を過ぎてしまった……。
わたしは、疲れ切った足を、どうにか前に出して、急ぎ足で歩いた。
看護師という職業は、きついものだと覚悟していたけれど、実際は想像以上だった。
まだ、新米のわたしは、注射一本打つだけで、手が震えて、酷く緊張し、ドッと疲れてしまう。
それに、仕事中は、ずっと、立ちっぱなしだ。
早く、家に帰って、横になりたい……。
わたしは、疲れのあまり、いつもは痴漢が出るという噂があるから、避けている近道を通ることにした。
そこは、古い神社の参道で、人気がない。
いや、奥の茂みの方に誰かいた。
低い、うめき声がする。
だれか、具合が悪い人がいるのだろうか……。
わたしは、仕事柄、気になった。
どうしよう……。
そう悩んでいると、いきなり、後ろから誰かに抱き付かれた。
「キャーーー!」
わたしは、悲鳴を上げた。
すると、口を塞がれた。
見ると、若い男が二人、いた。
男たちは、ニヤニヤ笑いながら言った。
「お姉さん、遊ぼうぜ。体でさ」
逃げようとしたわたしの腕を男が掴んだ。
「やめて下さい!」
私は、その手を振り払おうとしたが、びくともしなかった。
すると、突然、暗闇から、金属のグローブをした手が出て来て、若い男の手を掴んだ。
「なんだ?! てめえ!」
若い男が、叫んだ。
見ると、背の高い外国人の男性だった。
中世ヨーロッパの騎士のような格好をしていた。
だが、肩から血が出て、その顔の頬からも血が流れていた。
しかし、その外国人男性は、若い男に向かって、何か外国語で言い、持っていた剣を、振り上げた。
若い男たちは、悲鳴をあげて逃げて行った。
わたしは、ほっとして、あらためてお礼を言おうと、その外国人男性を見た。
凛とした美しい銀色の瞳に、銀色の髪をしていた。
そして、これが、王様騎士である「ファサル国王」との出会いだった。
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