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「私の心配をする前に、お前はこの国の宰相である。この国のことを一番に考えよ」
そうファサル国王は、シアに言った。
「わかっております。私が、この国の仕事をおろそかにしたことがありますか? ファサル様こそ、ご自分の仕事をなさって下さい」
「私の仕事?」
「ええ。今は、体を治すことです。この前の戦での傷も治っておられないのでしょう。ファサル様はこの国の柱なのです。武力的にも、精神的にもこの国の支柱なのです」
そうシアは言うと、私を見た。
「この者は?」
「ああ、新しい私の侍女だ」
「異国の者のようですね」
「そうだな。それもたまには良かろう」
「ファサル様、異国の者には、お気を付けください。周りの国が、ファサル様のお命を狙っております」
「この者は、その様なものではない」
「……そうですか。それでは、侍女としての働きをしてもらいましょう」
そして、わたしは、ファサル国王と共に、お城の外れにある建物に向かった。
「何の建物ですか?」
わたしは、ファサル国王に訊いた。
しかし、答えを聞く前に分かった。
体に馴染んだ、臭いに、その建物が何か分かったのだ。
病院の消毒薬の臭いがした。
「診療所ですか?」
わたしが訊くと、ファサル国王は、頷いた。
「この国で、唯一の診療所である」
その建物の前に来た時、扉が突然開いて、ひょろりとして、もじゃもじゃの髪に、眼鏡を掛けた若い男が飛び出して来た。
「ファサル様! 今、お迎えに行く所だったのです!」
「リナール……また世話になる」
リナールと呼ばれた若い男は、白衣のような白い服を着ていた。
医者なのだろう……。
「この者は?」
また、訊かれた。
今度は、私が答えた。
「新しい侍女です。でも、ただの侍女ではありません」
ファサル国王と、リナールが不思議そうにわたしを見た。
「わたしは、まだ新米ですが、看護師です。先生のお手伝いが出来ると思います」
わたしは、急に、むくむくと、職業意識が湧いてきた。
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