第一章 国王騎士

7/19
前へ
/60ページ
次へ
そんなわたしの不安に気付かないリナールは、安堵したように言った。 「丁度、先の看護婦が辞めてしまって、困っていたんです。あなたが、手伝って下さると、助かります!」 リナールの、にこやかな顔を見ていると、「出来ません」とは言えなかった。 わたしは、「出来ることはやろう!」と、決心し、診察室に入った。 診察室には、ベッドと、いろいろな薬が並んでいる棚があった。 そして、ベッドには、一人のおばあさんが寝ていた。 「リナール先生、あたしゃ、腰が痛くて、たまらないんじゃ。どうにかしておくれ」 おばあさんが、痛そうな表情で言うと、リナールは、棚から、一つの薬を出した。 「これを、毎食後に飲みなさい。それから、あなた……」 わたしを見た。 「あなた……名前は、何と言うんですか?」 わたしは、初めて名前を訊かれた。 今までは、「侍女」で済んでいたのだ。 「わたしの名前は、白河沙羅……サラと呼んで下さい」 わたしは、そう答えた。 「そうですか。では、サラ、このおばあさんの腰に、このシップを貼ってあげて下さい」 そう言って、リナールは、奥の方から、布状のシップを出して来た。 良かった……。 シップを貼るくらいなら、新米看護師のわたしにも、問題なくできる。 わたしが、おばあさんにシップを貼ってあげると、おばあさんは、喜んだ。 「ああ、いい気持ちだ。ありがとうよ、看護師さん」 わたしは、そう言われて、とても、嬉しかった。 わたしが、看護師を目指した時のことを思い出す……。 誰かから、感謝されたかった。 必要とされたかった……。 そして、病に苦しむ人を、一人でも救いたかった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加