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そんなわたしの不安に気付かないリナールは、安堵したように言った。
「丁度、先の看護婦が辞めてしまって、困っていたんです。あなたが、手伝って下さると、助かります!」
リナールの、にこやかな顔を見ていると、「出来ません」とは言えなかった。
わたしは、「出来ることはやろう!」と、決心し、診察室に入った。
診察室には、ベッドと、いろいろな薬が並んでいる棚があった。
そして、ベッドには、一人のおばあさんが寝ていた。
「リナール先生、あたしゃ、腰が痛くて、たまらないんじゃ。どうにかしておくれ」
おばあさんが、痛そうな表情で言うと、リナールは、棚から、一つの薬を出した。
「これを、毎食後に飲みなさい。それから、あなた……」
わたしを見た。
「あなた……名前は、何と言うんですか?」
わたしは、初めて名前を訊かれた。
今までは、「侍女」で済んでいたのだ。
「わたしの名前は、白河沙羅……サラと呼んで下さい」
わたしは、そう答えた。
「そうですか。では、サラ、このおばあさんの腰に、このシップを貼ってあげて下さい」
そう言って、リナールは、奥の方から、布状のシップを出して来た。
良かった……。
シップを貼るくらいなら、新米看護師のわたしにも、問題なくできる。
わたしが、おばあさんにシップを貼ってあげると、おばあさんは、喜んだ。
「ああ、いい気持ちだ。ありがとうよ、看護師さん」
わたしは、そう言われて、とても、嬉しかった。
わたしが、看護師を目指した時のことを思い出す……。
誰かから、感謝されたかった。
必要とされたかった……。
そして、病に苦しむ人を、一人でも救いたかった。
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