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明日、地球が滅亡する②
「投稿者:ミユ 日付:二XXX年十月三十日 今日も私の彼氏がかっこいい!」
ツミッターに惚気投稿をする。ツミッターは何百年も前に存在したSNSを模して作られたサービスだ。
懐古趣味の私にとって、昔流行したものを今こうして自分が体験できるのは最高に楽しい。
昔のサービスの再現版ではツミッター以外にも、アメーバピクというものもやっている。
アメーバピクというのは、自分の好みの姿に着せ替えたアバター同士をチャットを通じて交流させるものだ。
私はそこでゆうきくんという恋人ができた。最高にかっこよくて私が一目ぼれしたのがきっかけ。積極的に話しかけて、告白して、なんとかお付き合いまで進むことができた。
来年には結婚式を挙げようという話も出ている。もちろん結婚するのもピク内で。
ゆうきくんとはピク内のチャットで顔写真を交換したり、今日行ったカフェの写真や景色の写真の共有もしたりして交流をしていた。
アバターのゆうきくんもかっこいいけど、実物の彼はもっとかっこよくて私のタイプで。彼も私をかわいいって言ってくれて最高に幸せ。
だから私たちも付き合おうって何度も告白しているのだけれど、「ピク内だけでね」としか返してもらえない。
会いたい、テレビ電話をしたい、なんていっても断られる。もしかして、写真が拾い画で噓がばれたくないんだろうと思って調べてみたけれど、それも違った。私って本当に愛されてるのか不安なこともあるけれど、彼のことを信じたい。
惚気ツミートをし終え、ふとトレンド欄を開くと「地球滅亡」の文字が目に入った。
タップして出てきた投稿を一通り読む。
どうやら明日の二十三時三十分、巨大隕石と衝突して地球は滅亡するらしい。
……私、死ぬんだ。
ぼんやりと端末を見つめているとアメーバピクから通知が来た。
「ニュース見た?明日地球が滅びるんだって」
「みゆがよければ最後に会いたい、ナゴヤで会おう」
ゆうきくんが、私に会いたいって言ってくれた……?夢じゃないよね?死ぬ最後の日は私も大好きな彼に会いたい。
「もちろんだよ、私も会いたい」
そこから二人で打ち合わせをして明日の十四時にナゴヤで会うことになった。
そして迎えた最後の一日。私にとっては初めて彼に会える最高の一日。
電車を乗り継いで新幹線の駅に向かう。昔は公共交通機関の運転は人間がしていたらしいけれど、今はすべてAI搭載のロボットが管理している。
ロボットの車掌さんで良かった。でないと地球最後の日に電車や新幹線になんて乗れてないから。
新幹線に乗ったとしてもナゴヤまで一時間はかかる。その間の時間つぶしにライブ配信を聴くことにした。
今時ピアノの演奏を人間がするなんて珍しい。よし、これを聞こう。……うん、結構古風でいい感じの曲じゃない。
ピアノ演奏を聴きながらぼんやり窓の外を眺めているともうすぐ到着の時間。ゆうきくんに連絡しなきゃ。
「……あれ」
アメーバピクが開かない。何度開いてもエラーになる。どうして?ネット環境は整っているはずなのに。慌てて公式サイトを検索する。
「アメーバピクは本日十三時三十分を持ちましてサービス終了とさせていただきます」
よりによってこんな時にサービス終了?ゆうきくんに会えなかったらどうしよう……目の前が真っ暗になった。
ナゴヤ駅の改札を出たところで待ち合わせ、彼の顔は分かるんだから大丈夫。ぎりっと唇をかみしめながら新幹線を降りる。
きょろきょろとあたりを見回していると声をかけられた。
「みゆ…、だよね?」
よく見るとゆうきくんに瓜二つのきれいな女性。
「あ、もしかしてゆうきくんのお姉さんですか?!」
そういえば前にご家族がナゴヤに住んでるって言ってたような。お姉さんに会えたならきっとゆうきくんにも会えるはず。
「あ、いや…、自分がゆうきです。本名は結城智美」
……ゆうきくんは女?かっこいい雰囲気と名前で勝手に男だと思い込んでいた。
「ごめんね、女だって訂正したら嫌われるかと思って言えなくて。だから会うのも電話も断ってたんだけど……最後はどうしても会いたくて」
なんと返せばいいか分からないけれど、今まで一緒に過ごした時間や気持ちに嘘はないから。
「男でも女でも結城さんは結城さんでしょ?私は大好きだよ」
相手にぎゅっと抱き着く。ふんわりと甘酸っぱいベリーの香りがした。
「ね、今から指輪買いに行こう」
「指、輪?」
「今まで告白は全部みゆからだったでしょ、最後くらいは自分からさせて」
二人で手をつなぐと駅前のジュエリーショップに入っていった。
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