ヒトガタ

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「さあ、どうなんだろうな」  反応に困って、黙るしかなかった。やけに空気が重くなったような気がして落ち着かない。 「でさ、引いてあったテンションゴムを人形の太(もも)部分から抜こうとしたら。こいつがさ、やけに引っかかるんだよ」  佐藤がふいにこちらへと視線を向けた。真剣だった。こころなしか身を乗り出し、こっちをうかがうような目つきになった。  こう、と右手を持ち上げ、なにかを持っているように軽く握り、胡椒(コショウ)(ビン)でも振るような動作をする。 「音がするんだよ、軽い、乾いたものが摩擦で動くような」  ざわり、と砂混じりの布で擦られたような寒気が背筋に走った。騒がしい店内から音が失せたかのように思えた。  (いや)な想像が浮かぶ。  かさかさした、軽い音。筒状に内部が空洞になった人形の足から、聞こえるようだった。 「振ると出てきたんだよ」 「なにが」 「こう……──」  右の親指と人差し指で作った円型から、左手でパラパラとなにかが落ちてくる身振りをする。  バラバラになった、なにか。 「──節足動物の大量の脚」  思わず息を飲んだ。変な声が出なくてよかった。  節足動物と言えば百足(ムカデ)だろう。瞬時に、『蠱毒』という言葉を想起した。  古代中国で行われていたという呪術。ムカデ、ゲジ、蛇、蛙などを集め、百匹を共食いさせ、勝ち残った一匹は神霊となる。それを用いて、他者に害を為したり、思い通りにしたりする術をかける。  佐藤はこちらを注視している。
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