15人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「さあ、どうなんだろうな」
反応に困って、黙るしかなかった。やけに空気が重くなったような気がして落ち着かない。
「でさ、引いてあったテンションゴムを人形の太腿部分から抜こうとしたら。こいつがさ、やけに引っかかるんだよ」
佐藤がふいにこちらへと視線を向けた。真剣だった。こころなしか身を乗り出し、こっちをうかがうような目つきになった。
こう、と右手を持ち上げ、なにかを持っているように軽く握り、胡椒の瓶でも振るような動作をする。
「音がするんだよ、軽い、乾いたものが摩擦で動くような」
ざわり、と砂混じりの布で擦られたような寒気が背筋に走った。騒がしい店内から音が失せたかのように思えた。
厭な想像が浮かぶ。
かさかさした、軽い音。筒状に内部が空洞になった人形の足から、聞こえるようだった。
「振ると出てきたんだよ」
「なにが」
「こう……──」
右の親指と人差し指で作った円型から、左手でパラパラとなにかが落ちてくる身振りをする。
バラバラになった、なにか。
「──節足動物の大量の脚」
思わず息を飲んだ。変な声が出なくてよかった。
節足動物と言えば百足だろう。瞬時に、『蠱毒』という言葉を想起した。
古代中国で行われていたという呪術。ムカデ、ゲジ、蛇、蛙などを集め、百匹を共食いさせ、勝ち残った一匹は神霊となる。それを用いて、他者に害を為したり、思い通りにしたりする術をかける。
佐藤はこちらを注視している。
最初のコメントを投稿しよう!