ヒトガタ

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「なら、そんなケチがついたものに執着してないで、売っ払って新しいやつを買ったほうがいいんじゃないか」 「限定品だぞ、二度と手に入らないかもしれないものを、ハイそうですかって手放せるかよ。べつに実害があったわけでもないんだぞ」 「目玉はどうするんだよ、返品されたやつ」 「ああ、それならバーナーで融かして、細かくパーツに引いて、小さく巻いて、ドール用のアクセサリーに仕立て直してやったよ」 「なんだって?」 「ガラスが溶ける温度は800度以上なんだ。妙な怨念がついてようが、燃えて蒸発しちまうだろうよ」  もし、さっきの落札者の気が変わって、品物を返せと言い出したらどうするつもりだろう。今度こそ、早々に返金して(しま)いにするのか。 「じゃあ、人形本体はどうするんだよ」 「ああ、それはな」  佐藤は得意げに言った。 「化粧(メイク)が気に入らんから溶剤で拭いて取って、全部やり直した」  限定品って言ってなかったか。ああいうのって、化粧そのものも価値になるんじゃなかったか。素人がいじったらダメじゃないのか。 「前のオーナーが、あとから手を加えてるみたいだったからな。ありゃ標準のメイクじゃねえよ」  スマホの画面をいじり、こちらに向けてくる。 「これ見てくれよ」  この時点で思い違いに気づいた。見せられた画像。  男が手に入れるなら、さぞや美少女の人形だろうと思い込んでいた。 「人形って──、男かよ!」  勢い込んで突っ込むと、え、と佐藤が不思議そうな表情になる。 「そうだけど?」 「少女人形じゃないのかよ」 「そっちはべつに確保してある。妻役がな。こっちはその夫」  べつに──? いったい幾つ所持してるんだ。それよりも、妻ってどういうことだよ。理解が追いつかなくて、頭がくらくらしてきた。  機嫌良さげに笑いながら、佐藤が説明する。 「こっちが直す前(ビフォー)で、こっちが直した後(アフター)
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