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やたらと気だるげで、血色の悪いビジュアルバンドのボーカルみたいな、真っ黒で不健康な化粧を施された男性型の人形がスマホの画面上に大写しとなっている。
佐藤が指先でスワイプする。続いて表示されたのは、清楚(?)な面立ちの健康的な優男。同じ人形とは思えないほどの大変身を遂げていた。
まじまじとのぞき込んでいた。
いや、すげえな。同一の素体とはとても思えない。メイクでこんなに印象が変わるものなのか。
婚前に、外出前の妻が念入りに化粧を施す時間の長さに驚いたのを思い出す。見栄えを気にして、生身の女が化粧に時間をかけるのもうなずける。こういうのは、もはや特殊メイクって言うんじゃないのか。
被写体の外見は、手腕がうかがえる素晴らしさだった。
おもちゃの人形同様、単色の樹脂の素体に、下地として血管を描き込んでから、綿密に計算した異なる色を、エアブラシで幾重にも重ねてしあげる。わずかなそばかすやほくろまで細かく描き込まれ、まさに生きている者の肌であるかのように見える。
上まぶたのつけまつげの自然さ、細かい線で引かれた下睫毛や眉、唇の色や艶のしあがりは見事だった。その界隈で、いくつも受賞してきた実力者だけのことはある。
「おまえ、よく平気だな」
「なにが?」
「不気味な人形だってのに」
「気に入ったものに見つめられるなら本望だろ」
「男の人形なのに?」
「俺の気持ちは関係ない。なんせ、五人の子持ちの父親なんだからな」
「はあ? いったい、なにを言ってる?」
「そういう設定なんだよ。こいつには、最高の美少女である妻がいて、幸せに暮らしてる。しかも我が子である、女の子四人と男の子ひとりのかわいい幼児人形に囲まれてて、不満なんかあるわけないだろ?」
佐藤の両目が輝いている。夢中で力説するさまは、なにかに取り憑かれているかのようだった。
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