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昔からの友人で、一癖ある人物がいる。
進学先が別々になって、就職した場所や業種も異なるのに不思議と縁が切れなかった。
先に結婚して子どもが生まれてからも、気が向けばたまに仕事帰りに会い、地元の安くて旨い居酒屋で近況を肴に酒を飲む間柄となっている。
佐藤はきままな独身生活を選んだ。興味があるものにのめりこむ偏執的な性格もあって、変人に見られがちな男だった。
それが、これまでの趣味に見切りをつけたとかで「欲しいものがあれば適正価格で譲ってやる」と連絡してきた。なんでも今の趣味はなにかと物入りなのだそうだ。
「で? 今は何にハマってるんだ?」
「……ああ、それが」
蛸の唐揚げを旨そうに噛み、ビールのジョッキに手をかけながら、佐藤は厚ぼったいまぶたを開き、上目づかいでこちらに視線を投げた。
「ちょっとな、いろいろ」
顔に似合わず、声が渋い。暗闇で聞けば、惚れる女もいるかもしれない。ビールを取り上げた右手の親指と中指に絆創膏が貼られている。持ち上げるときに、わずかに表情が歪んだ。
「どうしたんだ、それ」
「ヤケド」
「火傷?」
ぶっきらぼうに言い切る佐藤に、似つかわしくない料理の趣味でもできたかと想像した。こいつに……?
まさか。よけいな作業に時間を取られるのを嫌がるやつだ。食事など作って片付ける手間を考えれば、外ですませたほうがいいと語っていた。
「焼けたガラスをつかんじまったんだよ」
「──は? なんでまた?」
予想外な返答に面食らう。どうしたらそんなことになるんだ。ついに職人技でも極める気になったのか。
すこしまえ、小学校高学年になった娘がやりたがったから、どういうものかは知っている。旅行先の土産物屋に工房が設置されていて、制作体験ができる場所があったのだ。
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