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ガラス工芸といえば赤い光を放つ灼熱の炉の中から、溶解したガラスの固まりを専用の長い金属棒で巻き取る。棒を回しながらシャボン玉を作るように息で吹いて、コップやら皿やらに造形するさまを想像した。悪くないかもしれない。極寒の冬であろうが猛暑の夏であろうが大汗をかきつつ、日々、煮えた水飴みたいなガラスと格闘する。佐藤の風貌にもぴったりに思えた。
だが、違った。大がかりなものではなく、個人宅でも制作が可能らしい。専用のガスバーナーで融点の低い棒状のガラスを溶かして、金属棒に巻き付けて造形するバーナーワークなのだと言う。
一般的に知られている工芸品ならば、着物の帯留めだろうか。トンボ玉と言うんだが、と佐藤は説明を加えた。
「バーベキューの串に使うような金属棒に離型剤をつけて、融かしたガラスを巻き取って、三センチほどのガラス玉にしあげるんだ。鉛ガラスとソーダガラスの二種を使ってるから収縮率が違ってさ、バーナーの炎であぶってる最中に遠ざけすぎたりして適温を保てないと破裂することがある。まだ慣れてなくてな、ガラスが弾けちまってさ。椅子に座って作業していて、太腿の上に破片が飛んだもんで──」
その瞬間を想像したらしい。思い切り顔が歪んだ。
「立ち上がりゃよかったんだが、頭が回らなかった。慌てた反射でうっかりつまんじまって。ありゃまさに火の玉だからな」
「なにやってんだよ」
「それは俺が自分に言いてえよ」
おかげでキーボードを叩くのも大変なんだよ、とぼやく。
「自分の肉が焼けるにおいって嗅いだことあるか?」
「あるわけないだろ」
「だよな」
佐藤は片側の唇の端を上げ、どこか得意げにも思える笑みを浮かべた。
「ま、工房に通う講習代もかかるし、そもそものハマリ自体が金食い虫なんだよ」
「まだ、ほかにもあるのかよ」
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