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空になっている佐藤のビールジョッキを見て、店員を呼んだ。日本酒に切り替える。ついでにいくつか肴も追加する。
カミングアウトした佐藤は気が楽になったのか、口が滑らかになった。
「でさ、過去に抽選販売されたっていう、限定品がオークションに出てたのをこのあいだ見つけてさ」
「ああ、うん。おまえのことだから話の先が想像つくけど」
「人気があるらしくて、何人かと競って落としたんだよ」
「ああ、そりゃ……大変だったろうな」
いくらかかったか訊くのはやめた。聞いてしまって、予想以上の大枚をはたいていようものなら、あきれを通り越してうらやましさでなんともいえない気分になるのはわかりきっている。
今日の譲渡品ですら、家族には公言できないのだから。いくら適正価格で譲ってもらったとはいえ、妻に知られたらなにを言われるか。
こっそり押し入れの積み箱の下のほうに重ねておくしかない。木を隠すには森の中だ。
「品物が届いて、開けてみたんだよ。参考の写真ではわかりにくかったんだけど、経年劣化でだいぶ黄変が進んでててさ。あと、個体差なのか……メイクの印象がずいぶん違ってた」
「あの手のものはぜんぶ手着色だから、まったく同じにはならんだろ」
「それにしても、なんていうか……思ってたのとは違ってたんだ。こんなものなのかと驚いたんだよ。とはいえ入手した以上、自分でなんとかするしかないと思ってさ」
さほど気にしているそぶりもなく、淡々と佐藤は話した。ちょっと肩をすくめる。
「頭の蓋を開けて、グラスアイを自作のものと入れ替えてみたんだ」
「グラスアイ?」
うん、と佐藤はうなずいた。「って言っても、バス釣り用のルアーじゃねえぞ」
佐藤はこちらに視線を向け、自分の目に人差し指で示した。
「こっちのほう、だ」
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