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「言われなくてもそのくらいはわかる。ビスクドールに使われてるガラス目だろ。俺が言いたいのはそうじゃなくて、自作って」
言いながら合点がいった。なるほど、ガラス工芸をはじめたのは、そういうことだったのか。
「そうだよ。どうせなら自分でグラスアイを作って、気に入ったドールに入れてやりたくてさ」
はあ、とため息が漏れた。
「あいかわらず、極めてんなあ」
「目ってのは、ふたつでワンセットだからな、一個作って終わりじゃないんだ。だが、思ったように虹彩と白目のサイズが揃えられなくてな。同じじゃないと完成品にならない。ジャンク品を大量にこしらえてみて、これは買ったほうが早いと気づいたんだが、案外作るのが楽しくてさ」
「良い趣味が見つかってよかったじゃないか」
「まあな」
これなら周囲にも白い目で見られず、はばかることなく公言できる趣味だ。
「機械製品ではなく、手工芸で出来がよくて、人気がある瞳の色なら値がつく。一点もので、誰にでも作れるわけじゃないからな」
あれは、と佐藤は言って居住まいを正した。
「経年劣化で変色したりしないし。中古でも、傷がついていなければ値崩れしにくいんだ」
だから、オークションに出した、と話す。
「すぐに売れたよ」
へえ、と相づちを打つ。
「いくらか回収できたんならよかったな」
「ああ」
応じた声は、どことなく上の空に聞こえた。
「気に入らなかったんで、売れてよかったよ。箱を開けたときに目が合ってさ。やけに鋭い視線だったから」
え、と引っかかった。視線が合う?
「追視アイだから、目が合うのは不思議じゃないんだけど」
「追視……アイ?」
オウム返しにすると、佐藤はこちらに視線を投げた。こちらの不思議そうな顔を見て、ああ、と納得したらしい。
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