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「グラスアイだけじゃなく、最近はレジン製の目玉でも人気があるんだが、ドールアイには視線が追ってくるものがあるんだよ。……こう、」
佐藤は人差し指を走らせ、空間に弧を描いた。指先がレモンのかたちを作る。
「虹彩の模様を載せた底面をドーム型にへこませて、その上に透明なガラスを盛ってやる。レンズ状にすると、眼底が屈折して浮き上って、まるで瞳孔が追ってきているように見えるんだ。底までの高低差で、ばっちり視線が追うものもあれば、そのままでは追わないのに、ドールの眼窩にはめてみたら追視の効果が出るものもある。構造を考えると面白いんだが、この──」
両手の人差し指を近づけたり、離したりしている。
「透明なガラスでどれだけレンズの厚みを作るかによって、ギラギラするくらいの勢いで視線が追ってくるものがあるんだよ。俺は強い追視が好きじゃなくってさ。どこか虚空を眺めてるくらいの表情がいいんだ」
「そうなんだ」
やけに力説されてしまった。想像する。人形と目線が合う……か。
剥製の目は、視線が合わないように作られていると聞いたことがある。
かつて生きていて、いまは死んだもの、つまり死体の皮で作られた生前そっくりの姿で復元されたモノが、まるで生きているような目線で追ってきたら、気味が悪いどころかそれこそ恐怖を感じるだろう。
いわば、生きているように感じたい人形なのか。人間は、不可思議なものにこだわるものだと思った。
「オークションで売れたから、さっそく発送した。手放したんだ」
数日過ぎた深夜のことだ、と佐藤は言った。
「ちょうど日曜の晩だった。仕事に備えて早めに寝たんだ。ふだんは滅多に途中で起きたりしないんだよ。だけど、ふと目が覚めた。なんか……音がしてるのに気がついたから」
「音?」
「ああ、なんか軽い、固いものが当たるような」
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