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佐藤は自室の片側に作業机を寄せ、椅子に座った時にベッドが背面となるよう配置しているのだという。だから就寝の際、横になるとちょうど机の上を眺められるらしい。
「俺は真っ暗で寝るのが苦手で、常夜灯をつけっぱなしにしてるから、部屋の中が見分けられる」
ことん、ことん、と目覚めたあとも音は断続したと言う。
不思議に思って、音の方向へと視線を向けてみた。
音は、作業机から響いていた。
なにかが……まるで軽い甲虫が、ガラス窓に当たるような音。
跳ねている。机の上で、爪の先ほどの白くて大きな蚤が飛び跳ねている。そんなばかなことがあるか。そう思って、よく見ようとした。
丸い、白いものが跳ね上がっては、机の上に転がり、また飛び上がる。しかも、ひとつだけではなかった。ふたつ、跳ねている。
ばらばらに跳ねて、転がる。
こん、ことん、ころり、ころ、
こん、こん、ことん、かつん。
なんだ、あれは、と思ったそうだ。
注視すると、白く丸いものには正円の鮮やかな新緑の色がついているのがわかった。あれは……そうだ、目玉だ。
はっとして、ぼやけた眠気が吹っ飛んだ。
固い机の板面で、かつん、かつっ、と次第に強く跳ね回る。
その意図を理解したんだ、と佐藤は言った。
「──やめろ!」
制止を叫んで、飛び起きる。そのとき、すうっと目玉から力が抜け、なにもなかったかのように机の上で静止した。
なにもない。なんでもないはずだ。そうだ、寝ぼけただけに違いない。
なのに、だれもいない部屋にただならぬ気配を感じる。机の上でドールスタンドで支えられて直立する人形へと視線を向ける。
すばらしく綺麗な顔が、真正面を向いてこちらを見ている姿が目に入った。
青く、氷のように澄んだ冷たい瞳の色。恨みがましい視線。肝が冷えた。
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