#1 訃報

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「できれば今日から晴樹んちに行きたいけど、今日は一旦帰って同居人と話をしてくる。明日は手荷物まとめて晴樹んち行くから、一日くらいひとりでも我慢できるか」 言えば晴樹は頬を膨らませた。 「子どもじゃないよ、ひとりでも平気──」 怒った顔を見せていたのが、急に崩れた。強がっていたのが急に何かが切れたように──音もなく一筋の涙が零れた、なんて静かに泣くのか。涙を拭う晴樹を、慌てて俺は抱きしめていた。 「泣きな。いきなり両親がいなくなりゃ、泣かないほうがおかしい」 もう何度も泣いたのかもしれない、でも今泣きたいと思ったものを引っ込める必要なない。 晴樹はおとなしく俺の肩に顔を埋めた、そして体が小刻みに動き出す。ここへ来ても大きな声でも泣けないのか、まあそれがいいわけでもないから構わないが、しゃくりあげる様子からもこちらの胸も締め付けられる。 もし、俺も両親をいっぺんに失ったら──想像してもしきれないな。俺はもう働いてもいて親元も離れてずいぶん経ち、妹もいれば完全にひとり取り残されたというわけでもなく、こんな時でも相談しながらやっていけただろう。
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